特集「揺れる豊橋」(4)

豊橋市長,逮捕!

豊橋市内は濃い霧で包まれている。

 9月27日午前1時過ぎ、NHKと地元CBCテレビがニュース速報のテロップを流す。
「豊橋市長 高橋アキラ 収賄罪でまもなく逮捕へ」
人間って悲しい、人間ってどうしてこうも弱いのだろう。「権力は腐敗する、絶対的権力は、必ず腐敗する」

 緑と人のまちーー豊橋であってはいけないことがおこった。会派の議員に連絡。2人は連絡つく。「2時15分からのNHKをみて下さい」

02:15
NHKが予定を変更して、高橋市長、逮捕のニュースを報道。大手ゼネコンの元名古屋支店長から豊橋競輪場のメインスタンド建設工事にからむ指名に便宜を図ってもらうために、高橋市長は、息子と共謀して数百万円の収賄を受けた疑いで逮捕された。

 昭和58年、県議会議員より市長に初当選、以来、連続4期市長を務め、その間440億円かけた新市民病院、新市庁舎、豊橋駅周辺整備と大型工事を次々と計画、実行していった。その陰に業界との癒着が噂されていたが・・・・・・・・・・

02:30
とにかく市役所へ。6月に完成したばかりの、13階建ての庁舎が、暗闇の中で偉容を誇っている。城主の逮捕に、21世紀の天守閣をシンボライズした新庁舎が心なしか、ゆがんで見える。
 報道陣の人たちが、三々五々集まってくる。エレベーターで4階へあがる途中、テレビ局の人にインタビューされる。
「起こってはいけないことが、起こってしまった。噂は長く続いていただけに、議会人としてこの事を、議会の場で解明、追求できなかったのが、無念。自らの力のなさに緊張して、役所へ来ました。とにかく現場へ来なければとの思いで、居たたまれず来ました。人間は強いはずなのに、弱くなってしまうのですね。
35万市民と議会が一緒になって、本当の緑と人のまちをつくらなければ・・」

02:40
村田助役記者会見。沈痛な雰囲気。報道陣の後ろでメモを片手にじっと聞く。
「市制90周年を迎え、こんな事になり、市民の皆さんに本当に申し訳なくお詫び申し上げます。みんなでもう一度、仕事に取り組み、原点に返り、戒めにして、議会の皆さんにも報告し、今回の汚名を返上するために頑張る以外にない。
 私、自身は市長の補佐役として、結局、補佐する力がなかった。反省をしている。申し訳ないと思っている。・・・」

03:30
助役の記者会見終了。「伊藤さん、こんな事になって・・」顔がゆがんだ助役の無念さに苦しい。
 秘書課職員が緊急に出勤してくる。表情は硬い。テレビカメラが市長室を映しに入っていく。職員が「そこはちょっとまって・・」と言っている間に、どんどんカメラは入っていく。

 記者が「これから豊橋市政はどうなりますかねー」
「本当の人のまちを作らなければ、市民が許さない。行政も議会も再出発しなければ・・・」
「議会としてはどうするのでしょうか」
「それは議長中心に、テンポよくやらなければ・・・・」
「市長選挙ですよ。どうします。」
「こんな事になった以上、市政を大きく市民と一緒になって、変えていける、人柄のいい人でないと・・」
「あては、ありますか」
「そんなこと、まだまだ・・」
「でも大事なことですよ。公明を名乗っている以上責任ある対応が求められますよ」
「それは確かだ。これからは、今までも含めて、一つ一つがしっかりやらないと・・」

04:10
白々と明けてくる、豊橋のまち。国会解散の朝。そして豊橋にとって戦後最大の苦渋の朝があけようとしている。
 仕事の人だろうか、ジャンバーをきて自転車で出勤する人、新聞配達の人、市民の皆さんはどんな思いでニュースを聞くのだろう。
 色々なことが浮かんでくる。
 牛乳配達していた岐阜での寒かった朝。
 コマツの建設機械のセールスマン時代の朝駆けの朝。
 そして通信教育のスクーリング受講のため東名高速を八王子まで走った明け方。
 始めてタスキを掛けた市議選出陣の朝。
 そしてこの朝・・・苦渋の朝・・・。

05:30
いつも送っているFAX通信で●豊橋市長、逮捕!●をまとめて、約200軒にグループ発信。今年2月から始めた、FAX通信。こんな時に威力を発揮する。

06:30
 豊橋駅前。新進党予定候補者と街頭演説。一睡もしていない体にむち打ち力を振り絞って演説。「豊橋市民の皆さんおはようございます。早朝の出勤、ご苦労様です。今朝、未明、市長が逮捕されました。豊橋の歴史の中でこんな苦しい、つらい朝はありません。しかし、市民の皆さん、この怒りを新しい豊橋づくりのエネルギーに変えようではありませんか。豊橋のまちから、談合とワイロをなくそうではありませんか。新しい豊橋は、真面目な人が中心となる豊橋です。当たり前の論理が通用する社会です。こんな辛く苦しい朝は二度と迎えないために」

08:30
与党議員各派代表者会議。
「早く市長を辞任させないと・・」「とにかく、事件の概要を説明させないと」
「9時、議会運営委員会で村田助役から市長逮捕の報告を受ける、午後1時、議員全員協議会、終了後、再び議運、これでいこう」
15分で終了。集まった会派の議員に、「前後策協議していてくれ、1時から全員協議会だぞ」

08:45
 庁内放送。村田助役「すでに、新聞、テレビでご承知の通り・・・・職員の皆さん、頑張って下さい。頑張りましょう」

09:00
 報道陣が一杯の中で、議会運営委員会、開会「競輪場メインスタンド建設工事を巡る収賄事件につき、当局から説明を受けます」
 村田助役が沈痛な表情で「このような残念な事態で申し訳ない。昨日来、市長が県警の方へ呼び出されていまして、夜半、耳を疑うような事を報道の皆さんからお聞きすることになりました。残念で、言葉がありません。重ねて申し訳なく思います。・・・・・・」

09:30
 会派控え室。県本部へ報告、支援団体へも。今後の公明としての態度協議。
「とにかく、市長辞任がさき。容疑を否定し、もたもたしているなら臨時議会で辞職勧告決議を」で意思統一。

テレビ局のインタビュー
「この2、3年、大型工事に絡んで黒い噂が絶えなかった、どうして議会でもっと追求されなかったのでしょう」
「イヤ、そんなことはないと思います。今までの議会で談合問題、公共工事の入札問題については何度も議会論議が行われた。私自身も一般質問で3回取り上げ、追求している」
「それでも、明らかにならなかったのはなぜですか」
「その責任の一端は議員一人一人にある事は率直に認めなければならない。しかし、私達議員には調査権と発言権しかない。一歩、街へ出れば捜査権などない」
「議会がオール与党になってとがめる人がいなくなったからですか」
「いや、そんなことはない。与党でも、是は是、非は非だ」
「じゃーどうして、最悪の結果を招いたのか、豊橋の風土ですか」
「そうは断言できないけど、”そうだらーのんほい”という言葉に代表されるように、あまり明確に黒白をつけたがらない風土はあると思います」
「それが、原因ですか」
「いや、そればかりではないはずです」
「じゃー何ですか」
「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対腐敗する、と言うことです。・・・・」
「辛口の、質問に答えていただいて、またよろしく願います」
 各新聞社、会派としてのコメントを「とにかく怒り心頭です。真面目な市民を裏切ったことが許せない。緑と人のまちにこんな事があっては、いかんのです。この怒りを新しい街づくりの「エネルギーに変えなければ・・」

13:00
議員全員協議会
 村田助役、憔悴しきった中で、声を振り絞るように「・・長年仕えて参りました私どもには、非力のなさを反省いたしています。悲しんでばかりおれませんので心を合わせ失ったものの回復に努めていきたい。しかし、収賄罪という内容に狼狽いたしている・・・・」

14:40
 議運、今後の議会対応について「市長がやめればそれでいいというのではない。徹底した事実究明を」「本会議緊急質問ではウソの答弁が続いた事が明確になった以上、何よりも市長に辞職勧告すべきだ」「本人の意思がどこにあるのか解らない」「議会としての意志も明確にしよう」

 結局、10月1日、1時半より議運、それまでに市長の意志を弁護士を通して確認、報告。いつでも臨戦態勢で望む事も確認。声明も各派合意。
 声明発表「またしても発覚した不祥事件。それも市長の逮捕という事態は、非常に重大な事態に直面していると言わざるを得ない。したがって、市長はその責任を早期に明らかにするとともに、市当局は失墜した市民の信頼回復に抜本的対策を講じること。なお、議会としてもその責任を痛感し、市民に対し市政への信 頼を一日も早く回復するよう努める決意である」(一部略)

17:00
 市内の有識者と懇談。
「今回のことをどうみておられますか」
「今回のことは豊橋の各層も反省しなければならない。無投票で連続2回、あえて戦うことを避けたつけが回ってきた。新しい市長をどう選ぶかが問題。従来の基準ではダメ。今までのパターンの踏襲ではダメ。一般の良識ある市民が納得できる新しい人が出てこなければ」
「これからの時代は経済の時代でも、政治の時代でもない、哲学の時代というか、哲学を持った市民の時代、どう生きるか、どう生活するかが問われてくる」
「その通りで、言葉の遊びになるが、人工の美、自然の美、人情の美のうち人情の美が支配する街づくりが必要。これからは文化・自然・産業の三本柱が街づくりの基本でなければならないと考えている。」

18:30
 疲れた体に夕食が通らない。返信FAXに抗議と怒りが一杯。「朝刊より早かった」という感謝の文も。


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