伊藤ひであきの地方からの提言

焼却炉問題の総括 苦渋の次世代型の決定! 98.09.24

 台風が四国、近畿、中部、北陸と一気に駆け抜けた9月22日(火)、豊橋市議会9月定例会の最終日。高温燃焼ガス化溶融炉という次世代型高度ごみ処理システムは、賛成多数で議決されました。24日、三井造船との間で本契約調印が行われ、今後、具体的な実施設計から、工事着工、そして平成14年4月稼動に向け動き出す事になりました。 この問題はいくつかの未成熟な論議のまま推移しました。

1.日本のごみ行政のあり方の論議が未成熟

 狭い国土で、人口密度が高く、夏季には高温多湿になる、そして公衆衛生を保ち、埋立て処分地の節減を図るためにはごみの焼却処理は日本では重要だというのは理解できても、だからといって大型焼却炉で、高温処理の連続稼動の方向にいくという厚生省の打ち出しはどうなのか。

2.次世代型焼却炉の開発は緒についたばかりで未成熟

 これはいうまでもありません。三井の回転キルン方式しかない、限定選択です。7月に技術評価書を取った流動床(荏原)、シャフト式(NKK)との比較の余地もなく。このエアーポケットの中で決めなければならない豊橋の苦渋の判断です。

3.ドイツのシーメンス炉の事故調査も未成熟

 地球の裏側のドイツ、フィルト市で起ったガス漏れ事故が、日本の地方政治を揺さぶりました。この事故原因は現在、ドイツ州政府により調査中です。その公的原因調査報告はあと2ヶ月くらいかかるという事です。しかし、三井造船は事故要因を産業廃棄物のワイヤの投入による残さ室の損傷、それによる燃焼ガスの流出と決め込み、豊橋炉は産廃は受け入れない、粗大ゴミは衝撃式破砕機で二度破砕されるとし、残さ室も閉塞しがたい構造になっており、問題ないとしました。

 しかし、シーメンス炉は120トンの実機であり、三井炉は20トンの実証炉の話です。「三井造船では技術導入にあたって、日本国内での稼動を想定した独自の設計を行っており、シーメンス社のプラントとの単純な比較はできないと考える」(厚生省環境整備課)という見解の中で、別物論議まででてきましたが、別物と断言すれば長い間の議会論議は白紙に戻ります。同じ物といえば、事故が信憑性を持ちます。

 事故原因も別物論議も未成熟なままです。

4.未成熟ななかで決めなければならない理由も未成熟

 現焼却炉が本当に持たないのか、それだけの緊急性に説得力がなく、1ないし2年、遅らせることは本当にできないのか、1,2年遅らせるためにはどれだけの費用がかかるのか。遅らせるためのデメリットは何か。多分、地元も含めた反対運動が収まりがつかなくなる事を恐れたとするなら、問題を先送りしただけで、市民に安定・安全稼動を示した事にならない。

5.三井の企業モラルは本当に大丈夫なのか論議も未成熟

 この1ヶ月だけでも、ドイツプランとのガス漏れ、豊能郡の住民訴訟、長期の談合疑惑、今朝の朝日新聞が書いていた豊能郡の焼却炉の冷却水の問題、これら、すべてに三井造船が深く関わっていて、イメージが悪くなる一方での決定を余儀なくされたということ。6月議会の論議のように、「豊能郡や宍粟郡の焼却炉とは炉型式が違うというような答弁でなく、企業モラルが問われている。また、大企業だから、厚生省が証明しているからといっても、その大企業や厚生省が何をやってきたかが、国民の目の前に明らかになってきている現実があります。

6.市長の「開かれた市政とは何か」も未成熟

 前市長の談合汚職で辞職の後を受け、自民系でない、社会党代議士から市長になった経過からも、前市長のような政治力で物事を処していくやり方でなく、情報公開し、市民参加の中で物事を処していくやり方こそ、早川市長の政治使命であったはずです。しかし、旧来の手法そのままでした。

また、談合問題で失脚した前市長の後を受け、清潔な市政を標榜したはずの市長が、事もあろうに、焼却炉メーカーの談合容疑で公取の調査が入り、その対象となった12社のうちの、三井造船とパートナーを組んで環境先進都市を目指していくという皮肉な結果となりました。


7.高度ハイテクノロジーを論議するにも未成熟

 市議会議員は化学や物理にたけているわけがありません。選挙で勝ちあがってきただけで、学科試験はありません。解らない人間が懸命に勉強しても、これだけの高度なシステムを審議するのには限界があります。

 答弁する側も三井の技術者でなく、技術者でもなく、ましてや科学者でもない行政マンなのです。論議すればするほど、噛み合わないし、変な方向に行ってしまいます。
 地方自治法では、メーカーの技術者を議会の答弁に立たせる事ができないのです。時代に全く合っていません。
 その意味で「立ち止まる勇気」を主張しましたが、一定の解約条件でこれらの未成熟な課題がきちんと氷解できるとは思っていません。しかし、一定の解約条件で、最悪の場合のストップがかけられる=立ち止まらせる事ができる という判断で、苦渋の賛成をしました。


 時代が新世紀に向かっている中で、既成のあらゆるシステムが音を立てて崩れていきます。未成熟な論議、未成熟な行政体制、そして、イメージが悪くなる一方の焼却炉メーカー、この中で決めなければならなかったのは、ごみ行政を通じて市民生活を守らなければならないぎりぎりの使命感です。



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