伊藤ひであきの地方からの提言

介護保険に意義あり 97.09.14

 人口362,000人の豊橋市では、65歳以上の高齢者は50,400人、高齢化率13%。 寝たきり老人は900人、一人暮らし老人は3,200人。
今日まで、「豊橋市地域福祉推進計画」 を平成4年3月に、平成6年3月には「豊橋市老人保健福祉計画」を策定、その 策定の前段階から公明市議団は懸命な議会活動で、公明の福祉施策を反映させる べく努力してきました。
 事実、その象徴として我々が提案した「市民福祉の日」 が「広げよう 福祉の心の ふるさと作り」の意味から8月22日と制定され、平成5年より市社会福祉協議会が主催者と なり、幅広い催しが多くの市民、団体、ボランティアの参加の元で年々盛り上がってき ています。

 この間、ハード、ソフト両面から在宅福祉に関する整備を進めてきました。

施設など福祉施策国・ゴールドプラン基準市老人福祉計画準備状況達成率
特別養護老人ホーム600人(65歳以上の1%)470人(6ヶ所)470人(6ヶ所)100%
老人保健施設 600人(同上)402人(4ヶ所)402人(4ヶ所)100%
ケアハウス 300人(同上 0,5%)220人235人100%
ディサービスセンター21ヶ所(中学校区に1ヶ所)18ヶ所10ヶ所55%
在宅介護支援センター21ヶ所(同上)7ヶ所7ヶ所100%
ショートスティ123床91床78床85%
ホームヘルパー254人202人184人87%
 その他、老人福祉センターは9ヶ所、農村部には老人憩いの家も設置されてい るなどのハード面だけでなく、老人世帯のガス漏れ警報機の設置、電動ベッドレ ンタル事業、高齢者住宅リフォーム事業補助金などソフト面の制度確立にも奔走 してきた。

 昨年7月からは「地域福祉サービスセンター」が開設され、四人の職員が「福 祉カルテ」を作成し、サービスの提供や紹介を行っている。新たな課題も提起さ れていてディサービスセンターが不足し、入浴サービス、給食サービスが十分対 応できないなどの課題も提示され、更なる仕組み作りに拍車をかけている。

 さて、今月末招集の臨時国会で継続審議になっている「介護保険法案」が参議 院で審議されることになっているが、すでに成立は確実視されており、現に我が 豊橋市では平成12年(2000年)4月実施は規定事実かのごとくに、開会中 の9月定例市議会の補正予算案では「高齢者ケアサービス体制整備支援事業費」 として38,000千円計上されていて、介護認定モデル事業を行う手はずになってい る。

 介護保険は要介護者の多様なニーズに対応し、適切な介護支援が行われるため に、幅広い介護サービスの供給が実現しなければならない。そのため市町村は地 域介護計画を作成し、実態を把握しサービス供給体制の整備を進める。これが高 齢者介護保障制度の概要です。

介護給付サービスのメニューとしては

在宅介護サービスとして
ホームヘルプサービスディサービスリハビリサービス
ショートスティ訪問看護サービス福祉用具サービス
痴呆性老人向けグループサービス住宅改修サービス訪問入浴サービス
医学的管理等サービス有料老人ホーム外出介助サービス
ケアマネージメントサービス
施設サービスとして
特別養護老人サービス老人保健施設
療養型病床群及び老人性痴呆疾患療養病棟その他の介護体制の整った医療施設
 が考えられています。

 このサービスを受けるために、西暦2000年から40歳以上の国民は給与か ら年金から約2500円毎月納めなければならない。そして65才になり、要介 護認定がされた場合にその指定するメニューに従って介護サービスを受け、かつ その費用の1割を負担する仕組みです。

 「介護保険に意義あり」というのは、各方面から指摘されている制度運用上の 問題だけではない。

 まずなによりも前記したサービス体制が規模においても財政力においても大き く差がある全国市町村で、用意できるとは到底思われないということです。愛知 県東部の東三河地方には山間部の南北設楽郡があり、人口200人に満たない日 本一のミニ村の富山村を初め、深刻な過疎に悩んでいる。当然、財政力に乏しく、 その上、高齢化率はすでに35%を超えて高齢化社会がやってきている。当然、十 分でないにしてもそれなりの介護体制は揃いつつあるが、各自治体の福祉予算の 中で、かつ極めて少額の負担の中でサービスが行われてきているのが実情です。 これが毎月保険料を納めているとなると当然利用希望が増えるでしょう。そうす ると自治体の福祉の現場は大混乱です。「保険あってサービスなし」と危惧され ているのはこの事です。

 よって私は介護圏としての地域をくくらないと、市町村によって介護格差が生 まれ、介護者がサービスの良い地域に引っ越しし出すことになりかねない。引っ 越す事ができない要介護弱者はその地域に残り、保険料を払いながら低水準のサ ービスしか受けれないまま淋しい寝たきりの老後を過ごすことになります。

 介護圏を作るためには当面は周辺市町村でくくればいいのですが、本質的には 市町村合併を強硬に進めなければなりません。しかし、その進捗を見るまでもなく 遅々として進まない状況で、どうしてあと3年で介護保険に移行できるでしょう か。

 また紹介した豊橋市の場合に国が決めたゴールドプランと市が立てた老人福祉 計画との目標設定に差があるのは、豊橋は農業都市であり、持ち家率も高く、二 世代、三世代同居世帯も多く、65歳以上の構成比率だけではじくことは現場に あっていないということです。

   さらに、豊橋市の面積は260平方キロメートルと広く、同じ人口の神奈川県藤沢市の ほぼ4倍です。この豊橋市に中学校は21ヶ所ありますが、藤沢市には19ヶ所と差 があり中学校数で基準を決めることは意味がありません。

 主張したいのは、介護保険の実施主体が市町村なら、市町村が地域にあった介 護計画を立て、地域にあった介護サービス体制を創造すればよいわけで、これが 本当の地方分権ではないでしょうか。今だに「サービス基盤の整備を計画的に進 めるために、国が策定した基本方針に基づき・・・」などと介護保険制度案で述 べています。市町村が介護保険料を徴収し、主体的に運営する以上、肝心の基本 方針こそ市町村に作らせるべきではないか。「高福祉は高負担とセットでなく、高 福祉は地方分権とワンセットでなければならない。」

 次に考えなければならないのは、少子高齢者社会の中では「家庭介護」には限 界があるから「社会的介護」が求められているのは理解できるし、「介護保険」 はその制度化である事も解る。しかし、本当に日本人は社会的介護を求めている のだろうか。「息子や息子の嫁に世話になりたくない」と言いながら、本当はそ の事を望んでいるのではないだろうか。

 一昨年暮、3ヶ月の入院生活ののち亡くなった義父は、いつもそんな強がりを 言っていたが、義母の献身的看病と藤沢と豊橋の娘が交代で岐阜の病院に詰め、 介護し、冬休みになって集まった5人の孫に囲まれ、穏やかな表情で息を引き取 った。

 主張したいのは「家族介護」から「介護保険による社会的介護」に移行しよう とする時代の流れは理解できる。しかし、問題なのは、それはすべて保険料、負 担料というカネに置き換えられるということである。このことにより日本人の生 き方の根幹にある「家族」「家制度」を唯物的な乾燥したものに変質させてしま わないかということである。

 ドイツの介護保険がよく引き合いに出されるが、長い間の血を流してまで戦い とった人権意識の高い国での制度である。社会的介護体制をより血の通った制度 にするためには、「他人と同苦」する深い哲学に裏打ちされなければ、介護費と 医療費の膨張だけをもたらす可能性があることを指摘せざるを得ない。地方政治に人間主義が要請されている所以である。


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