伊藤ひであきの視察報告

●派遣団(5)鉄の街ービッツバーグ● 99.10.4

●10月3日、4日
 デトロイトから飛行機で約1時間、ペンシルバニア州ピッツバーグ。アルゲニア川、モンガー川、オハイオ川の三つの大きな川に囲まれたダウンタウンを中心に周辺人口150万人の大都市である。1940年代、豊富な鉄鉱資源に恵まれ、昼間でも太陽が見えなく、街灯が灯されていたというほどの鉄の街=スモッグの街が全米第三位の住み易い都市にどう変貌したのか、そうした地域作りを成功させたものは何か。州や市はどのような施策の展開を図ったのか。国内では住み易さで上位にランクされる我が豊橋との共通性はあるのか。
 実質、二日間の滞在でタイトなスケジュールで派遣団は元気に動いた。

<<環境保護局>>
 ピッツバーグを含めて州の六分の一の350万人くらいのエリアをカバーするのがピッツバーグ環境保護局。大気汚染、水質、ゴミ、放射能など環境問題全般を調査管理している。
 石炭を燃やす鉄鉱業からの煤煙に悩まされ、工場主の奥さんまでもがこの町に住むのを嫌がったこの地域に1960年代、70年代になって国からの規制が始まり、取り組みが始まった。

 煤煙を浄化するバグフィルターなどの機械装置、次には移転させることで大気が浄化されていったというのが、いかにもアメリカらしい。その工場閉鎖により約10万人の労働者が仕事を失い、街から出て行った。間連業界は35,000人に減っており、今では一つの鉄鉱業しかなく、工場の質が変わった。ワシントン山の頂上にある展望塔にある当時の街の写真には驚かされる。とにかく真昼でも真っ暗なのである。

 またビッツバーグは川に囲まれているが、泳いだり、その魚釣りも、魚を食べることもできない。川底に金属類のヘドロが堆積しているからという。かっての鉄鉱の街の負の遺産である。
 また、雨が降ると下水の水が溢れて、川に入ってくるのが問題であるという。1940年代に下水道に雨水も合流する方式にしたのが災いしていて、300億円かけて改造している。@下水管の径を太くする。A各地区にため池を作り調整する。B雨水と生活水を分離するやり方で取り組んでいるが、83の地域の事情があり難しい。法的には各家庭が雨水を下水に流すことを禁止している。

 最近の一番の問題はオゾンが問題で工場からの煤煙や自動車から排煙が主要因で京都での環境会議を契機に、特にビッツバーグ一帯の規制が厳しくなってきている。しかし、その事は経済成長の障害になっている。
 「経済成長を低下させてでも、市民の健康を守るのが環境局の仕事ではないのか」という質問には「経済成長の推進と市民の環境を守るの両面から取り組んでいる」という。京都会議で一番消極的であった意味がおぼろげながら理解できた。アメリカでは環境保護局といっても決して生産、大量消費社会の対岸にあるのではない。「全面的に経済成長を推進しながら、市民の健康を守って行く」というポジションにあるという。

 この地域は地形からも西海岸の工業煤煙がジェット気流で運ばれてきて大気汚染される。国家的観点で取り組まなければならない。
 アメリカでは高速でハイウェイを走りぬくので大きな車が必需品になっているが、管理局のメンバーは小型のハイブリッドカーに乗っている。フォードやクライスラーでそういう車を作り出している。

<<市都市計画局>>
 大きな鉄鉱会社に取って代わって、技術産業、メディカル産業が台頭してきて、あわせてルネッサンスという都市開発も行われて行った。犯罪が少なく、他民族が共生しているというのが住みやすい地域である要因ではないか。

 ダウンタウンのドーナツ化現象で市民が郊外に住むようになってきたので大きな百貨店や娯楽施設が郊外に増える傾向にある。それで中心街で、夜でもレストランや劇場が開けるような活性化に取り組んでいる。市内に公営住宅を増やし、人口増にも取り組んでいる。ピッツバーグを代表するハインズUSAというケチャップ会社やメロン銀行の本社などもこの街に留まってもらうように、拡張計画などには都市計画局が協力するようにしている。

 現在では大きなフットボール場の横に新たにフットボール場と野球場を建設されていて、総事業費は5,000億円、コンベンションセンターの拡張も2,500億円規模。施設を作るだけでなく、家族ぐるみでスポーツや買い物に楽しめるような地域作りを行っている。これらの資金は企業中心の財団からの民間投資がほとんどだという。ここらあたりが、公共投資中心の日本の各都市の中心市街地の活性化策とは大きな違いがある。4,800億円規模の再開発も行っている。ソニーの映画館や娯楽施設も作るのだという。

 53エーカーの土地を利用し、72億円かける鉄道広場の壮大な再開発事業もメロン銀行の資本で行われている。かっての駅舎や貨物倉庫を巧みに再利用するユニークなやり方で、過去の歴史を残すというアメリカ人の国民性を反映するユニークな再開発である。

<<大学そして医療の都>>
 ピッツバーグはUSXという鉄鉱会社やハインズUSAというケチャップ会社、アルミニウムの会社などの産業都市でもあるが、大学と関連する医療の街でもある。
 カーネギー大学=スコットランドから移民してきたアンディル・カーネギーが設立。苦労した叩き上げのカーネギーがどんな人間も肉体労働から始めて教育を身につけ指導者にになっていこうという建学精神。エンジニア、ソフトウェアー、ロボット技術で抜きんでている。
 ピッツバーグ大学=世界恐慌に負けずに、学びの大聖堂と呼ばれる42階建ての建物を建て、民族色豊かな教室が配置されている。もともとは弁護士が設立したが、医療に長けていて、全米でも上位にランクされる付属病院を持っている。


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