伊藤ひであきの視察報告

● 根室・釧路 雄大な自然環境のなかで ● 99.07.07

 北はオホーツク海、南は太平洋に面する北海道の最東端、人口35,000人の水産都市−根室。デッカイ北海道を東へ行けば行くほど手付かずの自然そのものである事は釧路から根室へ向かうゴトゴト列車の車窓の風景で知る事ができる。特に春国岱から風蓮湖にかけての一帯はハマナスの大群落や野鳥の宝庫として、また水鳥類の集団渡来地として世界的に知られています。

 この環境資源を保全し、併せて自然教育の場としての活用を図り、地域振興に役立てようとするのが春国岱原生野鳥公園。平成7年春のオープンである。この公園は14年前の構想策定時から「日本野鳥の会」との連携で進められてきた事から、施設管理は根室市が行っているが、自然解説指導などの管理運営を「野鳥の会」に委託しているユニークな施設。総面積596haの広大な公園の拠点は木の香り一杯のネイチャーセンター。ここでは動植物の調査や自然保護などの指導教育を行っている。年間15,000人が訪れ、年々入館者は増えてきているという。入場は無料であるのも特徴。

 私たちが春国岱の砂丘を歩いた時にも「野鳥の会」のレンジャーが熱心に説明してくださった。ここでは我が国で確認された鳥類555種のうち約半数の246種が記録されていて、特別天然記念物のタンチョウも遠くに見つける事ができた。春国岱(しゅんくにたい)とはアイヌ語のスンク・ニッ・タイ(エゾ松林のある小高い所)が語源という。数千年の時間をかけて知床方面からの海流が運ぶ砂が堆積した砂丘の上に自生するアカエゾマツの林は学術的にも大変貴重なものという。

 次の日、7月7日、湿原であまりにも有名な釧路湿原をたずねた時にも、環境保全のために取り組む多くのボランティアの存在を知った。北海の広大な自然の陰に自然をどこまでも愛する無数の市民の存在がある。

 さてその釧路湿原を背後に擁し、北縁には阿寒の山々が連なる釧路市は人口20万人、自治大臣表彰の潤いのある街である。この街にユニークな施設ある。春採望洋団地に隣接した「望洋ふれあい交流センター」である。太平洋を望む高台に「広げよう、深めよう ふれあい・交流の場」をコンセプトにした複合施設である。

 老人福祉センター、ディサービスセンター、介護支援センター、児童センター、ふれあい広場、地区集会所、LSA対応施設(近接した高齢者世話付き住宅に設置されている緊急通報システムにより、入居者の緊急事態への対応や生活相談などを行う)の7つの機能がリンクしあって、地域・世代間の交流を図っている。当然ながら、厚生省、建設省、文部省の縦割り組織のなかで補助金を得ながら、これだけの機能を一つにまとめあげるには何かと苦慮したという市の担当者。廊下や扉で区切られてはいるが自由に行き来できるのが現場の智恵。こうした機能を持った施設がこういう形でしかまとめる事ができない所に国政と現場を預かる地方自治体との関係の象徴でもある。

 この施設のお陰で、老人福祉センターの通所者の誕生会や敬老の日には児童たちの手作りプレゼントがあったり、遊戯の提供があったりできる。また、通所者の家族がディサービスなどの実態を参観し、職員との連携も密にできるなど地域が一体となって、その「輪」を広げ、ノーマライゼーション精紳の認識を高める事に大いに貢献しているという。

 高齢福祉の時代を迎えて、福祉のノーマライゼーションをスローガンにして何度も訴える事よりも、こうした施設の具体的実践の方がいかに成果を収めているかを如実に物語っている。まさに「智恵は現場にあり」である。

 それにしても、3度目の釧路で気になっていた建物があった。釧路市の第三セクターが経営する「釧路フィッシャーマンズワークMOO」である。開業10周年を迎えているが、案の定、多額の累積赤字を抱え、経営は完全に行き詰まっているという。運輸省の民活法適用施設だけに展示ホールやプールやフィットネスクラブと構想は肥大化し、稼ぎを生まない共有部分が4割を占めている。西武セゾングループが乗り出しての都会型営業ノウハウは完全に挫折している。維持管理費で年2億円、借入金の利息も年2億円、累積赤字は30億円を越える。関係者はいう「『釧路川河畔で市民や観光客に新鮮な水産物を売る』というイメージでこの構想は始まったのですが・・・・・」。

 バブルに酔った敷かれたレールの上に大きな落とし穴があった。

 日本の危機が叫ばれて久しい。危機に呆然と立ちすくんでいるだけでは事は進まない。北海の大地で真面目に、真剣に環境を守り、地域福祉に挑む人達のはつらつとした笑顔・・・。それとは対照的に「フィッシャーマンズワークMOO」が垣間見せる幻の豊かさ・・・。拓銀倒産で象徴される北海道で危機の背景にいろいろな事が見えてくる。


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