伊藤ひであきの視察報告

●八女で動き出した次世代型焼却炉●2000.2.15

 雪のちらつく、鹿児島本線羽犬塚(はいぬづか)駅から車で10分。いわゆる八女茶の茶畑の中に、レンガ色したその建物はデーンと構えていた。完成間近の「八女西部クリーンセンター」である。2月15日(火)豊橋市議会廃棄物問題調査特別委員会(原 基修委員長 伊藤秀昭副委員長)の視察団一行の一員としてその中に入った。

 ここで日本で、いや世界で初めての次世代型ゴミ処理システム−「熱分解高温燃焼溶融炉」が試運転を始めている。

 なぜ、次世代型なのか。平成8年9月、厚生省は補助交付の対象となるゴミ処理施設には焼却灰のリサイクル・減量化を図るため溶融固化設備を有する事を義務づけた。さらに平成9年1月、今後新設する施設のダイオキシン類の排出濃度を0.1ナノグラム/N立方メートル以下とするよう全国自治体に通達するなど遅まきながらゴミ焼却炉から排出されるダイオキシン対策に動き出した背景がある。

 こうした動きを受けて、焼却炉メーカー各社は次世代型の実証開発に乗り出した。中でも先べんをつけたのが三井造船。いち早く、ドイツ・シーメンス社と技術提携し、実証運転を行い、廃棄物研究財団の認定を受けたのが96年4月。

 約450度の無酸素状態の炉でゴミを可燃ガスと炭素に熱分解。それを燃料に1300度の高温で灰分を溶かす。高温で完全燃焼するためダイオキシンは削減でき、焼却灰は固めてアスファルトなどの原料にもなり、熱効率もよく、リサイクルにも貢献できる。次世代型と言われる所以である。

 その1号機のトップランナーが八女西部広域事務組合(筑後市、八女市、立花町、広川町など)の八女西部クリーンセンターで試運転を始めたのである。110t炉2基、約100億円の事業費である。  その2号機は我が豊橋市の「資源化センター」で建設中である。200t炉2基と規模は八女の約2倍である。2002年4月の稼働を目指している。豊橋のそれは世界一のビッグランナーとなる。

 豊橋においては焼却炉型式、メーカー決定までの議会論議は白熱した。焼却炉議会と言われるほど本会議や特別委員会の論議は真剣なぶつかり合いで、約1年続いた。市議会派遣団をドイツ・フィルト市にも送り込みました。千葉県市原の実証プラントにもほとんどの議員が走った。

 そして、98年3月議会で、実行予算(総事業費約184億円)を議決し、9月の契約に向っていた夏、ドイツ、フィルト市(提携先のシーメンス社製)で起ったガス漏れ事故が、豊橋を再び揺さぶりました。(この事故原因は後にワイヤの固まりが投入された事によるものと結論が出ましたが、結局、ドイツ・シーメンス社の120t炉は試運転だけで葬り去られました。)

1.日本の焼却を中心としたごみ行政のあり方の論議が未成熟
2.次世代型焼却炉の開発は緒についたばかりで未成熟
3.ドイツのシーメンス炉の事故調査も不十分
4.未成熟ななかで決めなければならない理由も未成熟
5.地方議員がハイテクノロジーを論議するにも未成熟
な中での、98年9月議会の契約締結の議決。特にその担保条件として「2年先行する八女の試運転で重大な構造上の欠陥が指摘された時の判断として、その内容を十分調査し、そのことが、重大な構造上の欠陥であり本市のプラントにも影響を及ぽすようなものと判断され、本市の契約の履行が見込めないというようなことが確認されれば、それなりの措置を取る」などの担保条件をつけて議決しました。

 そして98年10月の起工式・・・。あれから1年半。豊橋の次世代炉は地下から地上工事に移りつつある。ここ八女では試運転が始まっている。

 私達を迎えてくれたのは八女西部広域事務組合の白鳥事務局長と鬼丸次長でした。

「昨年、10月15日に九州電力から本受電を行い、無負荷状態での試運転(メカラン・シーケンス)に力を入れてやってきました。12月21日から24日まで、実際に負荷をかけ(ゴミを投入して)2号炉の試運転を行いました。

 12月23日には初スラグを確認しました。スラグの状態が想像以上にいい。これはゴミ質にも依るのであろうが、完全燃焼が行われていると言う証明であろうと確信している。

 12月24日にシステムを止めてから、炉の中、回転ドラムの中にもぐって、自分で一つ一つポイント部分をチェックした。特に耐火構造壁や残物のチェックを行ったが、洋服をクリーニングに出したときのハンガーの中の針金など不燃物がひっかかってドラムの中に残っていたが、詰まりなどの問題はなかった。

 炉壁にはスラグが付着して、セーフィティコーティングの状態で耐火材の摩耗はクリアーできると確信した。ダイオキシン結果も速報で0.0001ナノグラムで公害防止基準(0.1)のさらに1/1000であり、想像以上だった。

 1月7日からは1号炉の溶融を行い、2月2日に内部点検をした。ゴミの熱分解には何ら支障はない状態。スラグ、アルミ、鉄の有価物も高品質のものが出てきている。

 ドイツのシーメンスの方式がベースであり、フィルトプラントの事故もあり、心配もあったが、あの事故は日本では粗大ゴミと思われるワイヤーの固まりが搬入されていた訳ですから、信用はしていた。日本には日本のゴミにあったゴミ処理システムが求められる訳で、その意味で日本の技術力を評価したい。

 またドイツの事故の時に問題になった、熱分解ドラムの排出口の所にあるカーボングラファイトのシールは、三井のは溝を切り、グリスによるシール方式であり、試運転で見る限り、完璧さが実証されたと思っている。

 発電状況についても1950KWの発電が達成でき、余剰電力については九州電力に買電した。

 回転ドラムの中にももぐって検査したが、腐食などは見受けられなかった。 現在は1、2号炉の両系統で毎日210Tのゴミを燃やしている。また、2系列で発電を行い3月に通産省の発電に係る使用前検査を受ける予定としている。

 排ガスも窒素酸化物 80ppm(公害防止基準 100ppm以下)、一酸化炭素は0(10ppm以下)で完全燃焼を証明している。この事はダイオキシン類発生の目安にもなるので、予想以上だ。豊橋では脱硝酸触媒塔を付けられるが、果たしてそこまで必要なのかどうか、八女ではつけないが、ダイオキシンの0.01ng(0.1ng)をクリアーできると確信している。

 ごみの分別状況と前処理工程については、可燃ごみについては、従来どおりの収集体制であり、前処理については別に必要ない。また、不燃ごみについても同様であるが、当然、冷蔵庫のフロン抜きとかテレビなどの基盤の取り外しの作業は事前に行われている。

 スラグ受入れ先の整備状況については路盤材、アスファルト骨材等への利用を計画している。1月末現在で約75t程度を搬出している。センターから200m先のある建設会社のプラントへ出荷している。

 稼働後の運転体制については、人員確保及び経費節減を考慮し委託することとしている。  (スケールアップについての不安はなかったのかの質問に対して)市原の20t実証プラントから見れば八女の110t炉はその5倍であり、随分、神経を使ったが、今の所、その不安はない。豊橋の場合、八女の2倍弱のスケールアップであるから、八女が順調に稼働すれば、問題ないのではないか。

 とにかく正月返上で取り組んでいる。"誰も聞く人がいない"状態の中での懸命の点検作業です」という鬼丸次長。

 世界初の次世代型焼却炉に賭ける技術マンの使命感と責任感に燃えているのがありありと分かる。全て自分の目で確かめなければ信用しない、否、確かめながら信用していく職人根性がいい。真剣に受け答えする額に汗が一杯。

 会議中、おいしい八女茶を飲み過ぎ、質疑の途中にトイレに向かったが、会議室の外では、壁に必死に耳をつけ、質疑内容を聞き取り、メモしている三井造船の営業や技術責任者の姿があった。ここにもまた、企業戦争のなかで世界初の次世代型焼却炉に賭けるメーカー側、売り込む側の男達の汗があった。「何とか首がつながっています」技術責任者は歯にかみながら笑った。

 センターの中は巨大なメカマシーンそのものである。ゴミ投入口から裁断機、熱分解ドラム、燃焼溶融炉、冷却水槽、バグフィルターと見て回ったが、その迫力には圧倒されそうである。特に直径約3m、長さ25mの熱分解ドラム(豊橋のそれは4mの28m)がゆっくりと動く様は圧巻である。この中でゴミが蒸し焼きになりガス化される。燃焼溶融炉の下部には覗き窓があり、赤々と燃焼しているのが見て取れる。

 全体が、かなり余裕の広さを持った配置ではあるが、それでもパイプやボイラーが仕組まれている各階を見て回るのだが、全体を包む「安定度」が感じられる。

 建物の外に、スラグが積まれていたが、当初、ゴミ投入量の10%位が予定されていたが、実際は4.1%位であるという。燃焼が順調に行われていると言う証明か。八女の土産に八女茶ならぬ、できたてのスラグをいただいてきた。

 また道路に面した構内に、排ガスの速報板があり、常時、市民にばいじん、硫黄酸化物、塩化水素などの測定値をリアルタイムで公開していくと言う。(豊橋も同じような仕組みになる)

 なんでもない、ありふれた畑の中の建物の中で、「21世紀に生きる人々のための次世代型ゴミ処理システム」(八女西部クリーンセンターのパンフレットより)が動き出している。その陰に「産みの苦しみ」を情熱に変えて、徹して挑戦している人間の輝きがあった。それに賭ける男達の汗があった。ハイテクノロジーに立ち向かう情熱がほとばしっていた。

 今の八女は2年後の豊橋である。八女で巨大な回転キルンがゆっくりと回り始めた。巨額の開発費を費やし、実績のないシステムの導入をめぐった論議は多大な時間とエネルギーを掛けた。そしてたどり着いた実機。「安定稼働」が証明された時、循環型社会の構築は理念から、具体化の時代に入る。

 八女でそして豊橋で大きなプロジェクトがいよいよ正念場を迎えている。

 外に出ると、あれだけ吹雪いていた空に太陽が輝き、春風を思わせる風が心地よかった。


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