伊藤ひであきの地方からの提言

介護保険に現場の物差しを 2000.3.1

●新たなる地域間競争が始まる

 4月1日の介護保険の実施に向け、いよいよ秒読みが始まりました。「安心して生活する事ができる介護社会」をめざし、全国の市町村がいよいよスタート台に立つ訳で、「自分の地域の将来は自分達が責任を持つ」という地方分権の試金石として、その動向は深い意味を持っています。「我が地域がどのような介護地域を作るのか、隣の街はどうなのか」、新たなる介護地域間競争も始まります。

 現在、全国3200余の市町村では「介護保険事業計画」が策定され、3月議会で介護保険特別会計の予算審議と共に活発な論議が行われている事と思います。いわゆる、上積み、横出しがなされるのか、なされないのか、なされる場合はどのように介護保険料に影響するのか。認定審査で自立と判定された人々をどのように対象外サービスでサポートしていくのか、など課題は山積です。

 また、昨年秋からはすでに認定申請が始まり、85項目の訪問調査や係りつけ医からの意見書も添付され、認定審査会が行われ、その結果が家族に伝えられ、市民の関心も日に日に高まり様々な論議を呼んでいます。

●推計高齢者人口と出現率が鍵

 さて、この「介護保険事業計画」は約2年かけて策定委員会が繰り返され、作られてきました。そのバックデータは豊橋市の場合、高齢者5000人の無作為抽出による高齢者一般調査、在宅・施設要援護者4000人の要援護高齢者調査、サービス提供事業者調査により得られました。その調査は健康状態・日常生活動作の状態把握や痴呆の状態把握、サービス別利用意向の把握、サービス供給体制の把握ができるよう様々な質問による調査票によりなされました。

 そのバックデータから要介護度毎の人数分布、要支援・要介護者の出現率、利用希望率、供給率、基盤整備率がフローチャートではじき出されていきます。そして、6階層毎の人数、サービス提供水準が乗ぜられ、要介護度別の介護サービスの必要量が計算され、基盤整備率が乗ぜられ、それにサービス毎のサービス単価(厚生省基準)を乗ずれば介護保険事業費の見込みが集積され、平成12年度から平成16年度の5年間の介護保険事業計画が策定され、介護保険料(豊橋市の場合 2757円)が決められていきます。この場合、推計高齢者人口と、要介護度毎の出現率が重要なキーを握っています。

●厚生省基準と現場との剥離

 豊橋市の場合、介護保険初年度の平成12年度(平成12年4月1日)の推計人口は369,500人、高齢者人口は53,070人という推計から全てが始まります。しかし、昨年、4月1日の人口は364,895人、高齢者人口は51,459人です。この一年の自然増から見て、4月1日の推計人口、高齢者人口に近づくことは、到底不可能です。すなわち介護保険スタートの4月1日の時点で、地域の実情とは違った数字でスタートする訳です。この推計人口、高齢者人口は厚生省が示す一定のフローによりはじき出されます。

 また、昨年10月からの豊橋市で行われた認定審査では2,145人が審査を受け(1月末)、自立と判定された人は76人、要支援 245人、介護度1 367人、介護度2 367人 介護度3 376人 介護度4 410人 介護度5 304人という結果です。豊橋市の高齢者人口51,459人から出現率を計算すると要支援 0.48 介護度1 0.71  介護度2 0.71 介護度3 0.73 介護度4 0.80 介護度5 0.59となります。

 ところが、厚生省のフローによる出現率は要支援 1.63 介護度1 3.20 介護度2 1.54 介護度3 1.15 介護度4 0.65 介護度5 0.47となっています。この厚生省出現率で要支援・要介護者の人数を計算しなければならなくなっています。そして、この数字が介護保険料にまでつながっていきます。  昨年秋からの認定申請は比較的重度の介護者が申請したのであるとはいえ、ここにも厚生省基準による出現率とは大きな差が伺えます。

 すなわち、豊橋市の場合、約9,000人の高齢者を中心に、キメ細かいアンケート作業を行ってきた訳ですし、昨年秋からの認定審査結果の事実データもある訳です。また市町村では地方自治法で定められた基本構想、それを具体化するための基本計画が策定されていて、人口推計についてもかなり正確になされている訳です。

●精度の高いDBの構築を

 厚生省が決めた人口推計算出式、要介護度出現率、この物差しで全国の自治体が「介護保険事業計画」を作っている訳です。介護保険が市町村の制度であり、地方分権の実践第一号であるなら、こうした元データこそ市町村の責任に任せるべきではないでしょうか。否、「初めての事であり市町村も一定の指針が欲しがっているのだ」と厚生省から反論されるかもしれませんが、画一的でなく、多様で効率的なサービスを住民の顔の見える市町村が運営主体になって取り組むはずの介護保険も結局は厚生省の示す計算式で「全国、右へならえ」でどうして「自分達の地域の介護責任」を果たせるでしょうか。

 また市町村もいよいよ始まる介護実践の中で要介護者の介護度、個人情報、身体的機能情報やどんな要介護者にどんな介護サービスを提供して、どのような成果が上がったのかを丁寧にデータベース化していく努力が必要である。そのための介護情報支援センター機能を確立する必要がある。精度の高いデータベースの構築は介護保険の必須条件であることを肝に命ずべきである。



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