■ライアン投法
「先輩の故障でエースの座をつかんだ大学一年の秋から、どうしても全国大会に出れないので、苦闘の日々が続いたようです。そこで、泰弘は“この小さな体で勝つためには”とたどり着いたのがライアン投法。それを体の、筋肉の、神経の血管の隅々にまでいきわたらせるための懸命の練習は半端ではなかったはず」と父は目を細める。
そしてついに三年の秋にはリーグ新記録となる防御率0.12を記録、3年秋以降は無傷の21連勝。
昨年の秋のドラフト。身体が小さくても頑張るヤクルトの石川投手が目標だっただけに意中の球団から2位指名。
■初登板初勝利
4月3日、広島戦で初登板初勝利。寄しくも弘子さんの誕生日。初勝利のウィニングボールは母のもとに。
その日、吉弘さんは息子の初勝利を見届けることなく、最終の新幹線で広島から豊橋に帰った。次の朝の新聞の配達があるからだ。
■母の思い
弘子さんは試合の前には激励のメールを送る。「けがをしないように」、「勝利を祈ってます」、「チームメイトが守って下さるように」と短文を送る。返事は時々しかないというが、「それでいい」
「調子の悪いときや、打たれている時はとてもテレビでも、ましてや球場でも見ておれません・・」弘子さんは言う。
■父の思い
「ダルビッシュや楽天の田中投手のように恵まれた体ではない。この冬、泰弘の投球を全球団が分析するだろう。プロだから。しかし、泰弘もプロ。負けないだろう」吉弘さんの目は光る。
そして、続ける。「しかし、野球はいつまでも、続けられない。現役を終えてからの人生のほうがきっと長いはず。人様に恩返しできる人間になってほしい」と目を細める。
■最多勝投手決定
小川投手は8日(火))の最終戦に17勝目を目指して投げる。「夏の疲れがピークのようなので、それが一番心配です」と弘子さんは手を合わせた。
ご両親へのインタビューが終わった頃、広島の前田健投手が先発したが16勝目を逃したというニュース。小川泰弘投手の単独最多勝が決まった。それも新人での偉業である。
秋の陽に家族が住む平屋の古い家は輝いて見えた。雄大な太平洋の海に負けないくらいに。