地方政治クリエイト

「”いじめ”には毅然と立ち向かおう」
教育再生のチャンス、夏休みに親子対話ふやそう!

 大津市の中学2年生の男子生徒が昨年10月、「いじめ」を苦に自殺したとされる問題は、今になって大きな社会問題として波紋を投げかけています。
 今、子どもたちの世界で何が起こっているのか。学校や教育委員会の対応はどこに問題があったのか。悲劇を繰り返さないために加藤正俊豊橋市教育長に聞いた。
(聞き手は伊藤秀昭)

―大津での「いじめ」問題をどう見ておられますか?
<加藤>
 メディアが連日報道し、次々に情報が流れてきます。中には興味本位な報道や、評論家の一方的な情報もあり、どこに真実があるのか、軽々には語れません。
 ただ、中学二年生の十三歳の未来ある子どもが自ら命を絶った重い事実には心が痛みます。

―「子供たちは知っていた、しかしその声は届かなかった」といわれていますが。
<加藤>
 この事件には子どもたちの問題、教師・学校の問題、そして教育行政の問題の三つの側面があると思っています。
社会生活は人間と人間のぶつかりあいです。当然そこには摩擦も軋轢(あつれき}も生まれますよ。そのはけ口に「いじめ」があるとすれば、どこにでも起こりうるとの認識に立っていなくてはなりません。
 子どもたちは、知っていますよ、子どもたちには見えていますよ。子どもたちの世界でのことですから。中にはガキ大将のような子がいて、ちゃんと子ども同士で解決していく自浄作用が働いている場合もあります。
 しかし、昔と違って今はもっと陰湿になっていますから、周囲にいる誰よりも教師が「教育的敏感さ」でそのサインを見逃さないでほしい。

―教師は「再三注意した」、校長は「けんかと判断した」というようなことが伝えられていますが。
<加藤>
文部科学省は「いじめ」とは「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」としています。
 この定義に当てはまるかどうかに固執することなく、殴られたとか、悪口を言われたとか、起きた事実を正確、公平に把握して、真正面から取り組むべきです。

 教師は学級担任を持っていますから、学級経営の責任者なんですよ。校長はその各経営者を統括していく最高責任者なんです。だから校長を先頭に集合体の機能だけでなく組織体としての対応がなされなければならないのです。

―大津では行政(市長)と教育委員会との関係もぎくしゃくしているように思いますが。
<加藤>
 教育委員会は市長から独立した行政機関ですが、市長と教育委員会が連携を密にして、行政としては「教育」に対する毅然とした態度で「子どもたちの未来」を第一義に、子どもたちのことを最優先で考えるべきですよ。

 大津のように市長が市教委を批判し、市教委は「学校との連携が不足していた」としながらも「学校の責任」を認めようとはしない。見苦しいですよ、

―大津では警察が動いて、教育の場に司法が入っています。
<加藤>
 教育行政として、学校現場に司法を安易に入れることには賛成できないけれど、大津のケースでは暴行があり、恐喝があり、それも、長期間に及んでいる。ここまでエスカレートしていたら、司法にお願いする以外にないと思います。

―教育長として現場の教師に臨むことは
<加藤>
 教育現場では教育的意義や価値でさまざまな教育活動を展開しています。リスクのことばかり考えると、守りに入ってしまいます。それではいけません。
 今の社会のあらゆるひずみは教育に現れてきます。日本人の誇りや謙虚さが失われて、親が子に手をかける。子が親を殺すなど考えられない世の中になってしまいました。
 しかし、日本人の精神性を呼び覚ましてくれたのは3.11大震災。子どもたちも、募金活動や絵手紙や絵封筒などで被災者に手を差し伸べていますよ。
 震災復興の今こそ、教育再生のチャンスだと捉えて子どもたちの教育―人間教育、心の教育に力を入れていきたいと考えています。

―いじめている子どもたちに教育者として、大人として、人間として伝えたいことは
<加藤>
 「いじめ」は絶対に悪い。いじめる側が100%悪い。弱いものに手を挙げる行為は人間として絶対に許されない。
すぐに「いじめ」をやめよう。そして、自分のしたことを親や先生に正直に話してほしい。そして、友達のところへ謝りにいこう。それを勇気といいます。

―いじめられている子どもには
<加藤>
 今は本当に辛いと思う。でもこの世に、生まれてきている命は君だけの命ではない。ましてや命を無くしたら取り返しがつかない。命を大事にしてほしい。
そして、勇気をもって、一番身近にいる人に声を出せ。大人たちの力を借りて、「いじめ」に立ち向かおう。

―夏休み中でもあり家庭へお願いすることがあれば
<加藤>
 夏休みこそ親子の会話や、ともに汗を流すなど子どもとふれ合う機会を増やして、子どもが安心して何でも話せる雰囲気を作ってください。
そして、親として子どもの発する様々なサインを見抜く目を養ってください。「いじめ」は子どもたちの問題と思われがちですが、実は大人の問題です。そして、子どもたちを守れるのも、私たち大人しかいないのです。(8月2日、東日新聞 掲載)


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