伊藤ひであきの研修報告

東京ビッグサイトで「自治体クラウド」を考える (11/09.10)

 11月9日、10の二日間にわたって、東京ビッグサイトでの「地方自治情報化 推進フェア2010」に参加した。以下は「電子行政総合展」に並行して開催された「電子自治体の未来を拓くICTセミナー」での特別講演やトピックセミナーの発言要旨。

●「電子行政の課題−技術設計と制度設計」:東大大学院情報学環 坂村 健氏

 マイクロプロセッサーの高性能化とインターネットの普及に代表される情報通信技術(ICT)の進歩により、考えられるサービスのほとんどが、技術的には可能な時代になった。

 しかし、技術的にできても制度的にできないことが多々ある。特にセンサーネットや電子タグなどを利用して現実の世界と関連する行政サービスを行おうとすると「誰でも使える=オープン」で、「広い応用に使える=ユニバーサル」のために標準化をどうするかと言う問題を避けて通れない。それであるがゆえに、できる/できないという技術可能性より、制度設計が重要になる。

●「地域情報化の最新ツールの活用とつながり創り・街創り」;杉並TV 高橋明子氏

 地域情報化には様々なプラットフォームがあり、最近ではtwitter、Ustreamといったソーシャルメディアと言われる道具も、さかんに活用されるようになった。インターネットやウェブに基づく技術を用いて、ブログやtwitterのつぶやきのような一方方向の独り言を多くの人々に伝えることによって、多くの人々が参加する双方向的な会話へと作り変え、もって人づくり・つながり創りの場を創出していこうとする試みが始まっている。

 その場合、最新ツール(ソーシャルメディア)はおまけと考え、地域の活動(コンテンツ)こそが問われる。その地域の活動をどう深めるか、活性化するかはプラットフォームが役立つ。そのソーシャルメディアはプラットフォームとの組み合わせで考える。その実例を杉並商店街での住民ディレクター活動を実例で紹介。

●「自治体クラウドと総務省の取組み」:総務省地域力創造グループ 地域情報政策室長 高地 圭輔氏  自治体クラウドの最大の狙いは、自治体の情報システムの効率化にある。もともと平成13年から共同アウトソーシングをLASDECの協力を得てすすめてきた経過がある。そして、今日ではブロードバンドが普及し、情報システムをネットワークの先において使う、いわゆるASPとか<SaaSと言われるような使い方もかなり一般的になってきた。

 自治体クラウドではこれらを踏まえ、クラウドコンピューティング(ネットワーク上のどこかにある、サーバ、データ、ソフトウェア等を利用して情報処理を行うこと)と呼ばれる技術を取り入れて、その効率化を一層進めようという狙いで立ち上げている。そのために、平成21年度に20億円の補正予算を確保し、自治体クラウド開発実証を始めている。

 全国の自治体を相互に接続するネットワーク(LGWAN)上にデータセンターを置いて、そこに自治体の基幹系の業務システムを置き、LGWANを通じて共同利用する実験を行っている。参加しているのは北海道、京都府、佐賀県、宮崎県、大分県、徳島県の6道府県。現在のところ、自治体クラウドは基幹系の業務システムの共同化をターゲットに進めている。

●「浦添市における業務改善によるコスト削減」;浦添市企画部情報政策課長 上間泰治氏。

 浦添市情報政策課がこの10年にわたって取り組んで、求めてきたものはユーザーが所有しないコンピューティングであり、その結果としての管理コスト削減、セキュリティの向上を目指してきた。  しかし、そのためのシステム化、汎用機からのダウンサイジング、シンクラ(端末側にアプリケーションやデータを持たせない、最小限の機能だけに抑えたシンプルなネットワーク端末)の導入、オープンソースの採用などは決して目的ではなく、絶え間ない業務改革が本来の目的であり、業務分析、業務改善、その評価、その上で、さらに業務改善を重ねてきた。

 その業務分析により、業務をユニバーサルサービス(共通業務)とローカルサービス(個別業務)に区分し、ユニバーサルサービスは全国で一つのパッケージに、ローカルサービスは地元で提供することにより、多重投資を防いで大幅な経費削減となる。

 具体的には昨年春に稼働した、地方税や国民健康保険、年金などの「基幹系」と呼ばれるシステムは自治体クラウドを利用することにより、その発注価格は約8億円。実質的に従来の半分で済んだという。更には浦添市では市職員の手でシステム運営を目指している。


 自治体を取り巻く厳しい財政事情、行政改革への対応、そして煩雑な法改正への対応、多発するセキュリティ事故・・・などから全国の自治体が統一可能な業務を洗い出し、そのシステムを統一したユニバーサルサービスを創出し、情報システムを「所有する」ことから「利用する」形へ移行し、1800の自治体で個々に運用されている行政情報システムの統合・集約を実現しようとする壮大な計画に向けて、懸命な挑戦の姿が感じられた二日間だった。


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