伊藤ひであきの地方からの提言

'10地方から 名古屋市議会を傍聴して (9/16)

 9月16日、名古屋市議会の審議の模様を本会議場で終日傍聴しました。以下は、傍聴記ですが、その前に、”名古屋の乱”の経過の概略をまとめます。

●市長対市議会の経過

 昨年春に行われた名古屋市長選で圧勝した河村たかし市長。「総理をねらう男」が市長になっての第一声は「庶民革命」宣言。その具体化が「市民税10%減税」と「地域委員会」、そして「議会改革」。

  「市民税10%減税」は昨年11月議会で条例を成立させましたが、示された予算案は市民サービスの低下や市債の増加がなどが見られ、減税の対象とならない人が約40万人、対象となる場合でも最低300円から最高2150万円と大きな差があることが明らかになったため、3月議会で恒久的でなく、22年度一年間だけにした。地域委員会も264学区中8学区でモデル実施し、その検証結果を踏まえ検討していくとした。

 議員はボランティアが理想でるという河村流「議会改革」については議会側がいち早く動き、1日1万円の費用弁償の廃止、議会基本条例の制定、月50万円の政務調査費の全面公開などに踏み切った。

 しかし、河村市長は「市民税10%減税」と「地域委員会」の二大公約が限定的なものになったのに怒り、「議員定数半減」「議員報酬半減」を打ち出し、議会側はこれに反発。

 ついに8月27日市議会解散の直接請求(リコール)のための署名集めが始まった。 リコールが成立すれば河村市長も辞職して市長選とのダブル選挙で信を問うという。しかし、そのためには名古屋市の有権者の1/5にあたる36万5千人の署名が必要。9月13日までの18日間で15万人余の署名が集まっている。

●かみあわぬ、虚しい、角つき合す議論

 一般質問3日目の名古屋市議会は8人の議員が登壇し、市長並びに当局に質した。豊橋市議会のように答弁も含めて個人に1時間が当てられるのと違って。名古屋市議会では会派に発言時間が割り当てられているからか、すでに2日目までに予定時間をかなり使った会派もあるからか、登壇者によっては質問通告の一部を取りやめたり、早口で一気にまくしたてる質問もあった。第一問より、第二問に重きを置く豊橋市議会と違って、第一問でほとんどの時間が費やされていた。

 児童虐待や生活保護急増対策、市立病院の整備、防災対策としての老朽住宅撤去補助金や耐震改修などについての質問が続き非常に参考になった。

 そして何よりも民主党議員から昨春の市長選挙における民主党の推薦と政策協議について、市長マニフェストの減税や行財政改革について、さらには民主党県連が市長推薦取り消しを決定した理由など対立する市長対議会そのままの応酬が際立った。

 「一体、この1年半でどれだけの人が市長と袂(たもと)をわかったのでしょうか」「市長の独断と偏見が市政を混乱させている」と切り込む議員側。

 これに対し河村市長は「市民税減税を1年にされたことは心の魂を奪われたようなもの」「どうぞ市長に不信任案を提出してくだせい。議会も解散して、市民に判断を求めましょうよ」と議論はかみ合わない。

 何故、ひざつき合わせて話し合い、いいものを生み出そうとしないのだろう。どうみても河村市長の類まれなキャラクターには協調・対話という言葉はないのではないか。午前10時から午後3時まで、約4時間のせめぎあいを傍聴していた率直な感想である。

●さすがの公明女性議員の質問

 「昔、ある所に王様がいました。ある日王様はみんなに1万円ずつあげるといいだしました。みんな大いに喜びましたが、しかし、お金持ちには1千万円以上もらえる人もいる人がいるかと思うと、一銭ももらえない人が半分近くいることがわかりました。それで心ある人たちが今年だけにしてくださいといいだしました。すると王様はこいつらの首をはねよと言い出し・・・・」と紙芝居から質問を始めたのは公明党の馬場規子議員。

 前述したような虚しい対立の構図の議場にギスギスした空気が流れる中で、明快に、力強く、停滞する名古屋市政を次々と具体的に列挙し、「名古屋の将来ビジョンと財源について」鋭く迫った。そして、それは「名古屋の10年後、20年後はどうなっているのか」という強い憂いをにじませながら、真面目な名古屋市民を稀代なキャラクターで翻弄してはいけないことを淡々と説く。

 また増え続ける生活保護に対して、ケースワーカーの配置は国の示す配置基準と比べてどうなのか。市営住宅の外装工事基準を示しながらいかに後回しになっているかを示し、1兆8500億円に上る市債についても政令市の財政比較から、恒久減税を一年だけにした理由を順々と質していく。

 わかりやすく、深みのある質問の展開はチーム3000の一員として嬉しい時間だった。


 NHKが「クローズアップ現代」用に「名古屋市議会で起こっていること」を取材中でした。議場でコメントを求められ約15分間、率直に「名古屋で起こっていることは、全国の地方議会で起こりうることだ!議会の権能を十分に果たして住民代表としての切磋琢磨を忘れると、住民からノーを突きつけられることになる」などとマイクに向かって話しました。ひょっとすると9月24日(予定)に流れるかもしれません。


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