伊藤ひであきの視察報告

多摩市議会基本条例、議会が議会であるために(07/30)

 新横浜から橋本まで行き、京王相模原線で京王永山駅で降車しタクシーで市役所へ。多摩川右岸に広がる多摩丘陵に広がる起伏にとんだ地形にマンションが立ち並ぶ―多摩市である。

 北は東京都府中市、東京都日野市、西を東京都八王子市、南を東京都町田市、東を神奈川県川崎市麻生区、東京都稲城市に接し、多摩ニュータウンが市の南部から稲城市、町田市、八王子市にまたがって造成されている。
 人口147千人、面積21.08ku、財政力指数1.256、経常収支比率92.2%の多摩市は「市民の暮らしの視点」を大切にして、持続可能な多摩市であるための土台作りとなる「新たな支え合いの仕組みづくり」に挑戦している。

 猛暑の多摩市を公明党豊橋市議団の団長である宮澤佐知子議員と視察したのは、多摩市の3月議会で全会一致で可決した東京都初の「議会基本条例」を中心に多摩市における議会改革について学ぶため。

●制定に至るまでの2年半が議会改革そのもの

 「本年3月に東京都初の議会基本条例を制定されましたので、それ以後、多摩市議会にどのような変化があったのかをせめて一年後あたりに視察に来させていただくのが、いいのかもしれません。何故かなら全国で88議会で制定されている議会基本条例が制定されている議会と、制定されていない議会との違いがなかなか解らないからです」。レクチャーをいただく前にそのように挨拶させていただいた。

 「私たち多摩市議会では議会基本条例を制定するに至った経過そのものが議会改革そのものだと思っています」と自信満々で話を始めていただいたのは3年前の平成19年10月に多摩市議会が今後めざすべき方向性を集中的に議論する場として「議会基本条例制定をめざす議会改革特別委員会」を設置したが、その委員長を務められた安藤邦彦議員。同じ公明会派の幹事長で当時は副議長。

 多摩市議会は議員や議会内だけの議論にしないことを念頭に、議会に対する市民の意識調査の実施、市民の意見や提案を収集するために出前議会を開催してきた。このなかで、さまざまな試行を重ね、経験を積み上げ、多摩市議会がよりよい機能を発揮し、役割を果たすことができる方策を探ってきた。この過程こそが多摩市議会の議会改革そのものだという。

 ならば、その役割とは何か。「多摩市の立法機関は市議会である」という一点である。地方議会は市民一人一人の信頼と協力を得ながら、憲法と地方実法の下で二元代表制により自治体の自治を推進していくのが、地方自治の肝要である。「その最高規範として多摩市議会基本条例を制定しようとしたのです」と安藤議員はキッパリ。

●アンケート結果の衝撃が各会派を動かす

 そして、多摩市議会に大きな転機をもたらしたのは平成20年3月に市民1500人の無作為抽出で行った「議会に関する市民意識調査」である。主な質問とアンケート結果は以下

@「市議会に関心がありますか?」は42.9%が「関心がない」。
A「多摩市議会の会議を見たことがありますか?」「見たことがある」は5.7%。
B「市議会議員に自分の意見や要望を伝えていますか?」→「意見や要望を伝えていない」が85.6%
C「市議会議員の人数が26人であることを知っていますか?」→「知らなかった」が63.5%
D「市会議員の名前を何人知っていますか」→「2人から5人」が46.8%、次いで「0人」が19.2%
E「市会議員の報酬が月額50万6千円であることを知っていますか?」→「知らなかった」が89.1%
F「市議会に市民の声が反映されていると思いますか」→「わからない」が35.9%、など

 この衝撃的なアンケート結果は議会各派に、各派の主張を越えて、多摩市民の代表で構成されているはずの多摩市議会が、市民からは遠い存在であり、この落差を埋めなければならないと団結して立ち上がった。

 こうして「多摩市議会は、市民の皆さんにもっとよく見え、わかりやすく、市民が参画できる議会に」という思いは、「市民が、市民の手で、市民の責任で主体的にまちづくりに関わることが大切です・・・・」と前文に織り込まれた。

 かくて、議会改革特別委員会は42回、アンケート調査については前述したが、パブリックコメントの実施、出前委員会は3回にわたって述べ15会場で、そして前議員に対しての条例素案説明会、そして本年3月8日に全会一致で可決。施行日は公布の日から起算して6月を超えない範囲内で施行するとしていて、その9月を前に関係例規の整備に余念がないところ。

●特筆すべき決算委員会の改革

 多摩市議会基本条例の特徴は
○討議による創造的な意思決定(市民との信頼関係でコンパクトで質の高い議論)
○市民からの政策提案(書式の整ったものは委員会審査へ、断片的な話も政策に取り上げる。また、請願や陳情の場での市民の発言を認めます)
が挙げられるが、もう一つ大きな特徴は○議会による事業評価を予算への連動である。

 これは、従来の決算委員会は、あちこちと散漫な質疑が続き、討論と称して長々と論述があるが解りにくい、また決算は認定であり、理事者側には痛くも痒くもない。

 そもそも決算委員会は市民の代表による政策評価の場である。また、来年度予算編成に連動させなければ意味がない。よって、議会全体としての明確なメッセージが必要であり、具体的には事業に対する評価シートを作成し、5項目の点数評価にコメントを加え、点数に応じた5段階評価を審査前の1次と審査後の2次と2回評価する。それらを議員間で討議を行い、「議会便り」への公表を行い、行政側が」どう対応したのかも明確にした。

 評価の妥当性と明確さとは何か、市民にとって分かりやすいかの試行錯誤はついてまわるが、困難に向かっているのが頼もしい。


 2年半の試行錯誤と共同作業で議員の変化、そして議会の変化は目に見えて著しく、当然、市民意識の変化もついてくる。「議会改革は議員改革であり、市民改革です」。2年半、特別委員会の委員長として、一貫して「市民の支持を得られる議会」めざして走ってきた安藤邦彦議員の目は輝いていた。

 視察に際し、多摩市議会議会事務局の皆様に大変にお世話になりました。ありがとうございました。


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