伊藤ひであきの視察報告

”大和”の呉で市民協働を考える(11/20)

 瀬戸内海は穏やかな秋の陽に輝いていた。戦艦「大和」を建造した東洋一の軍港。その象徴である呉市海事歴史科学館(愛称:大和ミュージアム)は、平成17年4月に開館以来、毎年100万人の来館者を記録している。館内では10分の1の戦艦「大和」の威容が空間を圧倒し、技術・戦争・平和・・・重い内容を訴えている。
 重工長大のイメージが強いこの呉市がソフト事業の新たな社会実験に挑戦している。それが「ゆめづくり地域協働プログラム」

●地域力をアップし、めざすは協働型自治体  そのための施策目標は二つ。
@コミュニュティの自立経営―地域住民が誇りを持って安心して暮らせる地域とするため、地域自らが自立した存在として「地域力向上」をめざす。
A小さな市役所の実現―地域住民が公共的サービスの担い手として、自主的に活動するような地域社会の構築をめざし、協働型自治体への移行を企てる。

 その核となるのは市内28の地区まちづくり委員会(協議会)。この委員会は地区内の自治会、各種団体、ボランティア団体などで組織されている地域包括型の新住民組織。各地域内での団体間の協働・連携を図る役割を担い、この地区まちづくり委員会(協議会)と行政(呉市)との協働を推進する。

●主役はまちづくり委員会(協議会)  主役は地区まちづくり委員会(協議会)であり、行政(呉市)は人的支援、財政的支援、活動拠点を確保し、提供する関係。

 具体的には
@地区まちづくり委員会(協議会)は「地域まちづくり計画」を策定する。
A行政は地区まちづくり委員会(協議会)の計画策定を応援し、今年度からは、使い道を限定しない地域予算制度―「ゆめづくり地域交付金」を人口割額で50万円/団体を基礎額として交付してフォローする。
B地区まちづくり委員会(協議会)は地域単独又は行政との協働でまちづくり事業や地域振興事業などを計画に沿って事業を実施する。
C行政(市)は地域担当職員(市民公務員)を張り付け、さらには地域リーダーのスキルアップ等を図ったり、支所や公民館のフリースペースを提供するなど「ゆめづくりフォローアップ事業」を実施する。

 こうして、これまで行政や個人で十分な対応ができなかった地域課題(ごみの減量化、防犯パトロール、自主防災事業など)について、協働により対応が可能となる。さらには行政の透明性が高まり、市の経営改善が図られ、地域では地域内の助け合いが広がり、住みよいまちづくりにつながる・・と夢はつながり、膨らむ。

●歳出を切り詰め元気な地域づくり

 こうした施策の展開は突然に出てきたものではない。平成14年度の市制100周年事業の種々の事業を市民との協働で展開した経験を生かし、「呉市市民協働推進条例」を制定して踏み出した。
 そして平成15年度から平成17年度にかけて周辺8町と広域合併が行われた。地域課題はそれまでの都市部に加え農村部や過疎地域などが加わり、複雑多様化する。

 そこにかぶさってきたのは財政のひっ迫。平成17年には呉市財政健全化計画を策定し、行政改革実施計画や人材育成基本方針、第3次呉市長期総合計画で「市民協働によるまちづくりの推進」を位置付け、平成19年度には「財政集中改革プログラム」を策定し、同時に「ゆめづくり地域協働プログラム」を策定してきたという協働の変遷と背景がある。


 全国の市町村は共通して、人口減少や少子高齢化など大きな転換点を迎えている。併せて国からの今までのような支援をあてにすることもできない。こうした中で求められる自治体像は住民との協働により考え、行動することに異論はない。

 呉市はそれをチャンスととらえ、28のまちづくり委員会に権限と財源を与え、地域が主役となった元気なまちづくりを目指す。一貫して市長の強いリーダーシップによって「市民と市が手をつなぎ光るまち」をめざす社会実験は始まったばかりである。

 視察に際し、市民部・市民協働課の皆様や議会事務局の皆様に大変にお世話になりました。


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