伊藤ひであきの研修報告

地方自治研究大会から 地方分権は果たして進むか(5/21・22)

 5月21日、22日と東京・明治大学アカデミーホールで地方自治経営学会主催の「地方自治経営学会第46回研究大会」が行われ、参加しておりました。全体テーマは「明日に向けて 地方分権は果たして進むのか」。

●地方主権は泥臭い闘争ではないのか

   講師には、浅野史郎慶應義塾大学教授(元宮城県知事)、増田寛也前総務大臣(前岩手県知事)、片山義博慶應義塾大学教授、福岡政行白鳳大学教授などそうそうたるメンバーがパネルデスカッションや講義をされた。しかし、どうも皆さん地方分権の旗手というより、政治タレントのような雰囲気や発言があり、心から共感できるような迫力は感じられなかったのは私だけだろうか。

 むしろ古川康佐賀県知事や山田啓二京都府知事、中田宏横浜市長、もっといえば厚い壁に挑まれている丹羽宇一朗地方分権改革推進委員長、「新宿歌舞伎町の街づくり、その再生」について話された中山弘子区長や、「過疎自治体(島)の挑戦について」懸命に話された山内道雄島根県海士町長の話の方が、泥臭い説得力があり非常に参考になりました。

以下、印象に残った論点を記します。

○なぜ地方分権は進まないのか(丹羽地方分権改革推進委員長)

 GDP比160%の借金がある国は世界中どこにもない。今のような赤字国債を出し続ければ年間16兆円の金利は消費税の8%に当たるような状況は危険水域を越えている。だからこそ地方分権は必然であり、それに官僚の抵抗が強いのは当たり前である。「ニュートンの慣性の法則」のように、外部の力を加えないと方向は変わらない。すなわち、法律で決めない限り官僚は変わらない。

 地方分権が進まない理由は二つ。中央省庁は地方の役人を信用していない、だから地方に裁量権を渡さない。また、地方はもっと、自分たちから立ち上がるような、権力を奪取するような気力が感じられない。
 「地方に出来る事は、地方に!」、「官から民へ」というがそのためには「官から政へ」と官僚主導から、政治主導で「国民のためでなく、地方の住民のために裁量権を渡せ」というポリシーで、三次勧告では税財源の問題(最低でも5対5)に踏み込んでいく覚悟である。

○議会は「自治基本条例の真贋を問え(片山慶應義塾大学教授)

 最近、「自治基本条例」を制定する動きが活発である。しかし、一体何のために制定したのだろうかと首を傾けざるをえないものも珍しくない。
 鳥取市の自治基本条例は「市は市政の重要事項について、住民投票を実施する事ができる」とあり、同県北栄町のそれは「18歳以上の住民は重要事項について、その1/6以上の者の連署をもって、住民投票の実施を請求することができる」とし、町長は「この請求があったときは住民投票を実施しなければならない」とある。
 住民の政治参画の機会を保障しているのはどちらかかは明確である。ゆえに基本条例に住民投票のことが規定されているからといっても、単に上辺だけの「絵に描いた餅」でしかない場合も多い。議会はその真贋を厳しく見定めるべきである。

○政策の立案を官僚に任せるから、ブーイングの大合唱(浅野慶應義塾大学教授)

 GDPの14.5%が落ち込むような、未曾有の経済危機。消費が冷え込んでいる「老後の不安」があるからだ。年金、医療保険、介護保険がその支えになっていない。その場合、社会保障のための消費税論議があるが、これはまやかしであると思う。「社会保障のため」といえば国民が理解していると誤解している。少子高齢社会の中で社会保障は増大し続ける、ならば消費税は増大し続ける事になる。

 昨年、評判が悪かった後期高齢者医療制度。制度設計そのものは悪くなかったのだが、ネーミングが悪かった。センスがないから官僚をやっているわけで、官僚にセンスを求めてはいけない。そのうち、85歳以上が増えてこれば「末期高齢者医療制度」を作るぞと見透かされている。
 年金記録問題が未解決のまま、年金からの保険料天引きとは何事かといった批判も起きた。国民の目からは「高齢者の医療を守る」からではなく、財政的見地からの発想ではないかとと見透かされた。

 法案を通すかどうかだけで政治が動いているからこうなる。このツケは他の政策分野にまで及んでいる。

○これからの政局、勝負は来夏の衆参同日選挙か(福岡白鳳大学教授)

 麻生さんの支持率が20%台が30%台に回復と報じている。西松・小沢スキャンダルで離れていた支持者が戻ってきたというべきで、相変わらず比例区の投票行動は民主党に向き、首相には鳩山の流れだ。
 自民党にはなかなか人がいない。中川さんもを認めるほど世間は甘くない、女性候補には決定的説得力はない。石波さんが減反を語っても防衛大臣の衣が見え隠れする。桝添さんも深夜にインフルエンザ会見で冷静さを失っている。こうした見え透いたやり方を国民は見抜いている。

 自民党も自民党、民主党も民主党、だからといって三極としての渡辺嘉美、江田健治が「劇団ふたり」を越えれるかといえばなかなか。松坂の市長選―無党派の33歳の若者が出て、当選した。栃木・足利市長選も新しい投票行動がでてきている。今週末のさいたま市なども、もう既成勢力では止められない。

 障害者自立の名の下に、高齢者医療の名の下に、福祉が切り捨てられ、制度は疲弊してきていることをみんな知っている。

 コンビに弁当が夜8時になったら480円のが100円になるから、みんなじっと待っている。地方を歩けば目一杯に疲弊している。市長のホームページが問題になっている鹿児島阿久根市の市民の平均給与は300万円でしょう。なのに公務員の給与は600何十万円、退職金は基本給かける58ヵ月、こういう現実を変えれるのは地方議員の目線。

 政界再編、救国大連合の流れの中でかなりの確立で政権交代になる。民主は比較第一党になり、民主主導の小連立政権ができるのかも。ならば、来年夏の衆参同日選挙あたりが大きな決戦になるのではないか。


ホームページに戻る 視察報告メニュー