伊藤ひであきの視察報告

藤沢市のPFI手法による総合防災センター(2/13)

 面積69.51ku、人口405,000人の神奈川県藤沢市。いうまでもなく全国的に有名な江ノ島、片瀬・鵠沼・辻堂海岸を有し観光都市としての性格も併せ持つ「湘南」の中心都市。JR、私鉄(小田急・相鉄・江ノ電)、地下鉄(横浜市営地下鉄)、モノレール(湘南モノレール)と交通の利便性が高い事から、東京・横浜の通勤・通学圏として発展し、湘南海岸の温暖且つ穏やかな気候とあいまって戦前戦後を通じ一貫して人口が増加し続けている。

 市民目線の市民経営を基本として、「一生住み続けたいまち湘南藤沢」の実現を目指し、国内はもとより世界に向け情報発信を続けている。

●あらゆる災害に対処する防災拠点

 藤沢市に2002年7月、「藤沢市総合防災センター」が誕生した。その7年前、1995年に発生した阪神・淡路大震災―その壮絶な震災現場が、住民の命と財産を守らなければならない全国の自治体に様々な課題を突き付けた。

 当然、藤沢市も、阪神淡路大震災で、情報の混乱により被害が拡大したことを教訓として、災害情報を一元化し、迅速に救援活動を行うにはどうすればいいのかをコンセプトにこの防災センターは設計建設されている。

 市役所の隣接地に建てられた同センターは地上6階建て。ここには消防本部、災害対策課が入っており、大型災害時には総合防災本部も設置される。5階にはIT推進課があり、おもしろいのは市民へのパソコン教室が開設されている。
<  また特筆されるのは6階建ての建物自体が、阪神・淡路大震災クラスの地震にも耐えうる免震構造になっており、災害時に停電になっても防災活動ができるように非常用電源も確保。屋上には電源として太陽光発電パネルが備えられている。

●被害の最小化へ、災害情報の一元管理

 災害時には、火事や救急の通報窓口となる「消防本部」と災害情報、救援情報の受信や発信、指令の拠点となる「災害対策本部」の機能を一カ所に集めたことで、災害情報の一元管理が可能となっている。
 これにより地震や台風などの大規模の災害が発生した際、(1)気象予報や河川水位、地震観測収集などの各システムからの情報(2)地震の際に市内の被害状況を予測するシステムからの情報(3)地震防災課や消防本部などに入ってくる市民からの情報(4)災害情報が集中する市内14カ所の地区防災拠点や、市の職員がデジタルカメラで入手した災害地や避難場所からの情報――などが「被害状況把握システム」に集約される。情報は市の関係部局も共有できる。
 大型災害時、市長が中心となる災害対策本部では、集約された情報を大型スクリーンに映し出し、意思決定や指示が行われ、迅速かつ効果的に救援、復旧作業を行うことになる。

 また藤沢市では、「リアルタイム地震情報活用システム」を、全国の自治体としては初めて導入している。このシステムは文部科学省の独立行政法人「防災科学技術研究所」が研究・開発を進めているもので、藤沢市は総合防災センターや地区防災拠点などの整備が評価され、研究都市として選ばれ、そうした経過から他の自治体に先行して運用されている。その目的は唯一つ「被害の最小化を目指す」ためであることはいうまでもない。

●全国初のPFI的手法による総合防災センター

 もう一つの大きな特徴は、民間の技術や資金により公共事業の運営を行う「PFI的手法(民間資金による社会資本整備:当時はまだPGI手法は法的にも確立されていなかった)」を取り入れている事である。

 具体的には、藤沢市がNTTコミュニケーションズと20年間の債務負担行為で約117億7,607万円(年間5億8,880万円)で契約を行い、用地を無償提供した上で、施設の建設やシステムの開発、維持管理、運用を委託した。このなかにはシステム更新費用も含まれており、堪えず最新のシステムが運用されている事になる。これにより、藤沢市が独自に事業を進めるよりも年間約6.6億円の費用削減につながり、施設は20年後に市に無償譲渡されることになっている。

 「防災施設として建設からシステムの構築、維持管理までPFI的手法で行うのは全国でも初の試みでした」と林 晃災害対策課長はきっぱり。感心させられるのはPFIの影の部分までもきちんと整理されている事である。曰く「行政側、事業者側双方はリスク分担を把握しているか、事業破綻について明確に契約されているか、行政側は事業期間終了まで借金を背負っている事を忘れていないか」など。


 義兄夫婦が住んでいる関係で35年前から藤沢市に足を運び、藤沢市の移り変わりを目にしてきたが、どちらかといえば地味な印象をもっていた。今回、念願の藤沢市の視察が実現したが、JR藤沢駅から程近い市役所一帯に、これだけ中身のある防災拠点を有していたのには驚きであり、頼もしい限りである。

 視察に際し、林 晃総務部災害対策課長に大変にお世話になりました。ありがとうございました。


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