伊藤ひであきの視察報告

45年ぶりの藤枝で地域文化を考える(10/22)

●45年ぶりのサッカーのまち藤枝市

 静岡県のほぼ中央部に位置する藤枝市は人口132千人。大井川下流の左岸にあり、JR東海道本線や東名高速道路、国道一号など東海道ベルト地帯の交通の要衝。

 「松に花咲く藤枝の一王子 宮居ゆたかに 幾千代を経ん」と、平安時代の武将・八幡太郎源義家の歌にも詠まれているように、藤枝市の市章も藤の花弁を象徴したもので、市の鳥はうぐいすと文化の薫り高いまちである。

 すっかりリニュアールされた藤枝駅に降り立ったのは45年ぶり。高校3年の夏、完膚なきまでに打ちのめされた、藤色のユニフォームの藤枝東高校のサッカーに衝撃を受け、東海道線で大垣からやってきて、藤枝東高校グランドまで歩いて、練習を見に来た。
 そして、またショックを受けて、帰りに藤枝駅で「サッカー最中」を買ってみんなでむしゃくしゃに食べた45年前の思い出が蘇った。

 この藤枝東高校は国公立大学へは卒業生の半分以上が進む進学校。実に80年前に志太中(現藤枝東高)初代校長が、サッカーを校技とし、志太中蹴球部が創設されているのは驚きである。そして藤枝東サッカー部は今年1月の全国高校サッカー選手権大会で準優勝という輝かしい戦績で復活を果たしている。

●市民が育む藤枝文学と文学館

 その藤枝東高校の北側に、蓮華寺池があり、この池を取りまくように公園が整備され、花と水と鳥が自然の彩りを添えている。当日も多くの市民が散歩やジョキングを楽しんでいて、子供からお年寄りまで誰もが憩えるまさに楽園の風情。
 その蓮華寺池に茶色の建物が周辺景観に調和して佇んでいるのが「藤枝市郷土博物館」であり、そこに併設して昨年9月にオープンしたのが「藤枝市文学館」。

 文学館の建設運動は、昭和56年に市民要望が提出され事から始まり、市民有志が「藤枝文学舎を育てる会」を結成し独自の募金活動を行い、資料の寄贈や文学展示会、講演会、情報発信などの活動が展開されてきた熱き市民の歴史が特筆されます。

 こうした活動を受けて、市では平成3年から「文学舎施設整備基金」として独自の積み立てを行い、6.8億円を準備したという。そして、平成8年の「藤枝文学館基本構想・基本計画」をベースに建設された。開館一年間で29,000人、日平均100人が訪れている。

●郷土ゆかりの作家の作品を展示

 収蔵されている資料は、童謡「月の沙漠」で知られる抒情画家の加藤まさを、藤枝出身の作家の藤枝静男、藤枝で執筆活動を続けた作家の小川国夫の作品を中心に、「藤枝」が登場する中世の紀行文、田中藩の文学者、藤枝宿の文化人など、文学作品だけでなく、芸術作品や関連調度品、映像資料なども広く展示公開している。
 また、各種講座や学習会の開催、情報発信などの事業を行うほか、市民ギャラリーや講座学習室などを貸し出し、読み聞かせや、紙芝居、かるた会などの企画で幅広く市民の文化的素養の高揚を図っていることも嬉しい。
 また、建物は、半円形のユニークな設計で既存の郷土博物館と接続しており、文学館と博物館が繋がっているだけでなく、展示も双方が補完しあう形で工夫されているのも楽しい。


 藤枝市は来年1月1日に岡部町との合併が決定し、人口142,000人、面積194kuの新藤枝市として新たな歩みを開始する。
 長年、藤枝に住む人達を自称「枝っ子」というのだそうだが、「枝」が「幹」となり大いに「地域文化」振興の展望を開くだけでなく、藤枝東のサッカーが復活してきたように「地方主権」の新たな幕を開くのではないかとの思いが彷彿してくる。
 45年ぶりの藤枝市を、今度は爽やかな思いであとにしました。

 視察に際し、学芸員の椿原靖弘氏と大石裕美女史に親切に対応していただきありがとうございました。


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