伊藤ひであきの視察報告

視察報告 戦国近江のPFI病院 06.11.24

 琵琶湖八景の一つ「安土八幡の水郷」の風土を、足利尊氏や、豊臣秀吉が覇権を競った近江戦国街道、その拠点となった近江八幡市。人口6万8千人、面積76`u。コンパクトな湖国文化都市である。

 11月24日に公明議員4人で、この地を訪れたのは、10月18日の「公明新聞」で「本格的PFIの病院誕生」として紹介された市立総合医療センターのことを、現場で学ぶためです。

●PFIへの経過

 現在の「市立総合医療センター」病院事業の前身は「八幡病院」が昭和16年に7科70床の病院として開院したことによる。その後、増築を重ね403床の市民病院として地域医療に貢献してきた。
 そこで、老朽化が著しく、市議会の市民病院改築特別委員会から「移転新築が望ましい」との報告を受けたのが出発点である。

 折からの財政環境の厳しい中で、さらに検討し、病院建築においては全国初のPFI手法により、国のモデル事業として取り組むことになり、事業者の選定、建設、開院に向けての準備など、様々な課題をクリアーしながら東近江地域の中核病院、災害拠点病院として、高度な情報システムを備た高度急性期医療を基本に据えた整備が進められた。

 耐用年数も100年建築として、周辺の歴史、文化、景観にも調和し、ウェット(情感、思い入れ)の視点を取り入れた柔らかい感性の病院づくりにつとめ、今秋10月に開院したばかりの病院である。

 全国初のPFI病院として先進的な病院、診療体制を象徴するために、名前も「市民病院」から「市立総合医療センター」とした思い入れである。

●BOT方式のPFI

 PFIによる病院開設は、高知医療センター(公共による設計、民間事業者が資金調達して施行、施行後は公共に施設を所有権を移転、民間事業者が施設を運営)や八尾市立病院(維持管理・運営のみPFI)の先例がある。

 これに対し近江八幡市立総合医療センターのPFIは、民間出資の特別目的会社「PFI近江八幡株式会社」が病院施設の設計・建設、所有、維持管理、運営を長期間行うBOT(ビルド・オペレート・トランスファー)契約方式を全国で初めて採用した本格的PFI病院であり、全国から注目されている。

 病院経営と診療部門を市が担い、病院の維持管理運営については民間のノウハウと資本を活用する仕組みで、開院してから30年間、PFI近江八幡鰍ェ施設を所有し、維持管理や運営業務などを担当し、30年後に、病院施設を市に譲渡する点に特徴がある。

 市が直接実施する場合の財政負担額は391億5千万円、PFI方式で実施する場合の市の財政負担額は335億3千万円、その差56億2千万円とはじき、30年間の病院事業費総額の対比でも、従来方式では約3千億円(建設、維持管理、一部関連サービス業務=約750億円、薬品・材料費、その他=約750億円、病院職員人件費=約1,500億円)が、PFIに移行する建設、維持管理、一部関連サービス業務が約682億円となり、約68億円節約できるとした。

 さらに30年間に建物所有者であるPFI近江八幡鰍ェ支払う固定資産税などは約50億円を加えると、実に118億円の節約効果がある。

 PFI法(民間資金等の活用による公共施設などの整備等の促進に関する法律)が施行されたのは1999年9月。近江八幡市が市民病院の移転新築を決めたのは、その前年。すでにその頃から川端市長を中心に病院PFIの検討が始まっていたというから画期的である。

 そして公募型プロポーザルとして新病院整備事業・運営事業が公告され、椛蝸ム組を代表企業とする企業グループが02年8月に事業者選定され、事業推進のための特別目的会社「PFI近江八幡鰍ヘ大林組が100%出資して03年7月に設立され、03年11月に事業契約を締結した。
 近江八幡市とPFI近江八幡鰍ニの契約は30年間に及ぶ。その事業費の合計は建設・維持管理、関連サービス業務(一部)を併せて682億円に上る。

●PFIの効果と課題

 自治体がPFI事業を実施する最大の目的はVFM(Value For Money)の追求である。すなわち公共資金(Money)の使用価値(Value)を最大化しようとすること。すなわち民間活力を導入することにより、少ないコストでいかに大きな価値を見出すかということ。

 「PFIは行政と民間との知恵比べであり、コラボレーション」(川端市長)という言葉に象徴されるように、PFIの成否は病院とPFI近江八幡鰍ィ互いの強みを発揮しながら、いかに強いパートナーシップを発揮できるかにかかっている。

 そして病院PFI事業により期待される効果として、
@財政支出の削減・平準化による病院経営の健全化。
A設計・建設・運営まで一貫した体制による、施設機能及び利便性の向上。
B医療周辺業務を事業者に一括して委託することにより、より質の高いサービスの提供。
C役割分担を明確にすることにより、医療従事者の医療業務への集中と質の向上。
Dリスク分担による問題発生時の適切な対応、及び安定した事業運営の確保。
が上げられる。

 一方、PFI方式の課題としては
@病院と事業者とのあり方
A長期契約の硬直性への対応
B質の高いサービスの提供を引き出すための支払メカニズム
Cモニタリングの仕組みなどがあげられる。

●地方公営企業法の全部適用

 もうひとつ、近江八幡市の病院事業は平成16年4月から地方公営企業法の全部適用を実施し、独立採算を指向した病院経営を行い、安全安心な医療の提供と健全経営の維持に勤めていることがPFI病院事業に踏み切った大きな要素である。

 自治体病院経営形態は地方公営企業法全部適用は246病院と自治体病院1068病院の23%を占める。近江八幡市では今回の新病院開設にあわせて事業管理者を全国公募し応募者の中から前滋賀医科大学付属病院経営改善担当副病院長であった奥信氏を選任し契約締結権や任免権などを与えている。
 事務長についても病院運営管理の経験を持つ人材をヘッドハンティングして市職員として採用している。

 それで何が変わったかといえば、会議であるという。集中的に会議を繰り返し即断即決で意思決定を早くし、院内LANでその情報を全職員が共有し、意識改革がどんどん進んでいるという。市から出向している事務職員の病院専門事務職員への転換を図るなど、組織を活性化させるためにはどこまでも意欲的である。

●自治体病院は転換期

 今、自治体病院はは転換期にある。その背景には
@政府による市町村合併の強化
A自治体病院の病床数削減の強化
B大学の自治体病院からの医師の引き上げ
C自治体財政の悪化などがある。

 近江平野の歴史的文化環境にマッチした素晴らしいハード面を備えた近江八幡市立総合医療センターの船出は、こうした厳しい市場環境下での開院である。  周辺には大津市民病院、県立成人病センター、彦根市民病院など高機能の急性期病院がひしめいている。

 群雄割拠の戦国時代をかけ抜けた秀吉のように、PFIという新しい手法で、一定の成果を収めることができるかどうか。
 長年にわたり医業収益で黒字を継続してきた私立病院の流れを継続できるのか、それとも赤字に転落し悪戦苦闘するのか。
 はい上がれなければ、市財政に大きな影響を与え、市民に、それも病める市民に大きな痛手を与えることになる。

 PFI手法どころか前項の実対病院は地方公営企業法の全部適用や指定管理者制度(公設民営)、地方独立行政法人化などの経営手法で紆余曲折を繰り返しているのも事実である。130年続いた国立国府台病院が民間に売り渡された事実もある。

 「全国初のPFI病院の成功例を創るぞ」という官民のコラボレートによる覇権への挑戦は始まったばかりである。

 視察に際し、近江八幡総合医療センターの副管理者であられる土田氏を始めとする病院関係者の皆様や、議会事務局杉浦氏に大変にお世話になりました。ありがとうごいざいました。

 また、玄関まで見送っていただいた折に「PFI導入にはお二人の公明議員には大変にご尽力いただきました」とのお話がありましたことを付け加えさせていただきます。


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