伊藤ひであきの視察報告

視察報告 倉敷の挑戦ー市場化テスト 06.10.11

 岡山から山陽本線で15分、鷲羽山を望むなだらかな平野部に広がる354kuの広大な市域の倉敷市。昭和42年に児島・玉島と大同合併し、平成14年には中核市となり、昨年には船穂町・真備町を編入し、人口476千人、「ひと、輝くまち 倉敷」めざして更なる発展を目指している。

●倉敷市の現状と市場化テスト導入の背景

 @2007年問題:市職員3800人のうち、いわゆる団塊の世代がこの5年間で800人以上が、今後10年間で約40%の1500人が退職する見込みであり、蓄えたノウハウをいかに継承するかという大きな課題に直面している。

 A厳しい財政状況:税収減や国の三位一体改革などによる大幅な財源不足、1600億円を越す市債などの借入金の償還、また生活保護費や医療費などの扶助的経費の増加など硬直化する財政状況。

 B市長マニフェスト:平成17年度から5年間で33億円の人件費削減をめざした職員400人の削減、外部委託・平成16年度から人材派遣など民間委託を推進し9億円の支出削減、同じく平成16年度から3年間で100億円の支出削減により一般会計(H18年度予算1590億円規模)歳出額3%削減をめざす市長のトップダウン。

 C市役所改革ビジョン:平成18年度から5年間の第五次総合計画後期基本計画では市民満足度の向上、経営感覚、効率的で質の高い行政サービスを提供を柱とした市役所のあるべき姿を明確に打ち出している。

 D公共サービス改革法:これまで国や地方自治体が担っていた公共サービス事業を「官」と「民」が対等の立場で競争入札に参加し、価格・質の両面で最も優れたものがそのサービスの提供を担っていくとする市場化テストの実施手続きを定めた「公共サービス改革法」が平成18年6月に施行された。

●倉敷の導入目的と基本原則

 こうした背景と小泉改革の行政改革、規制改革の流れの後押しを受けて、増大する市民ニーズに「官」と「民」で役割や責任を分担し、協働する事により市役所の「市民サービスセンター」をめざして倉敷市では全国の自治体に先駆け「官民競争入札制度」の導入に踏み切った。

 導入の目的は@行政サービスの質の向上と経費の削減、A新たな行政ニーズや重点施策への対応、B官民協働の促進、C職員の意識改革(経営改革の醸成)とし、基本原則として@市と民間事業者のいずれかが担い手となっても行政サービスの質確保の原則、A業務情報を広く開示する公平性の原則、B市民への説明責任を果たすためにも透明性の原則、C行政サービスの担い手が民間事業者になった場合でも最終的には行政の責任確保の原則を明確にした。

●2300の事務事業の仕分けと実施スケジュール

 そして、法令によりその担い手が市に限られている2300にのぼる事務事業について、平成12年度から実施している事務事業評価制度を活用し、事務事業の要不要、拡大か現状維持か、縮小かの事業の方向性、民間実施の可能性、明らかに民間優位なものは民間委託、明らかに直営優位なものは直営など実施主体の検討などの観点から仕分けし対象事業を絞り込む作業まで進んでいる。

 今後、定員適正化計画、実施効果などを踏まえ、議会論議や市民提案を基に年内に対象事業を決定していくという。
 現在のところ、官民競争入札を実施してもあまり意味がなく直営とすべき事業が1500.民間の方が明らかに質も効率性も向上すると思われ民間委託対象事業が約200、競争原理により、質と効率性を向上させるべき領域に約100事業があり、これらを官民競争入札の対象としていく方向であるという。

●今後の展開に期待

 倉敷市での官民競争入札の導入はまだ著についたばかりである。来年度予算も含め具体化に踏み出していくことになる。

 「新たなる公共」が国の行政改革、構造改革、規制緩和などの一気加勢の動きの中で議論され、試行されて久しい。PFI事業や指定管理者制度などその具体化も始まっている流れのなかで、さらに倉敷市では先駆けて官民競争入札の導入に踏み込もうとしている。

 地方自治法に基づく行政経営のあり方とは何なのか。それが公務員縮減によるコスト削減を優先した場合にどこまで行政サービスの質が確保されるいのか。
 民間でできることがなぜ行政ではできないのか、具体的に言えば市役所で行えば一人1000万円の人件費が、民間で行えば約6割で済みコスト削減に結びつくなら公務員制度そのものこそ問題ではないのか。
 また倉敷市の5年間に渡る事務事業評価の取組みが市役所の業務をどのように変え、職員意識の改革にどう結びついたのか。

 こうした点について担当者に質疑させていただいたが、公共サービスの質の確保とコスト縮減という相反する課題にどう取り組んでいくのかは今後の展開に期待し、見守る以外にない。
 「ひと輝くまち」をめざす倉敷市の行政責任は市民が輝くためのものでなければならないことだけは明白である。

 視察に際し、倉敷市議会事務局や行政経営課の皆様に大変にお世話になりました。ありがとうごいざいました。


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