伊藤ひであきの視察報告

●派遣団(3)パリの少子化対策● 06.09.30

●フランスの少子化対策

 EU25ヶ国の中で、ドイツの人口が8200万人、フランスは6300万人と二番目。昨年一年間で生まれた子どもは80万7400人と最近では最高を記録した。一人の女性が一生で産む子どもの数を示す合計特殊出生率。その数値が日本では1.25(05年)に落ち込むなか、フランスではV字型の回復軌道を示している。
 減り続けていたフランスの出生率は、94年の1.65を最低に反転し、05年には1.94へ回復した。

 20世紀のはじめからヨーロッパの先進国での最重要課題であった少子化問題。フランスの復活しつつある「子だくさん社会」、その背景には手厚い経済的支援や、働く女性に子どもが負担にならない社会制度、新しい家族観などが複合的に作用している。

●手厚い支援策

 フランスは、欧米先進国のなかでも子育て関連の経済的支援が最も手厚い国であり、「子だくさんほど得する社会」の構築を進めている。

 <<独特の税制>>フランスでは所得税課税に独特の制度が用いられている。これは「家族」を課税の単位とみなし、同じ所得なら家族の人数が多いほど、所得税負担が軽減される仕組み。

 <<児童関係手当>>
・家族手当:日本の児童手当(小学6年終了時までの児童を対象に第1子、2子5000円、第3子以降1万円、所得制限あり)に相当する「家族手当」は第2子に月額1.5万円、第3子以降に約2万円が20歳未満まで所得制限なしで支給される。
・家族補足手当:3歳以上の児童を3人以上扶養する世帯に支給。3人目以降の子ども一人につき月約2万円、所得制限あり。また、このような家族には交通費割引や家庭電化製品割引制度も導入されている。
・新学期手当:9月の新学期に修学年齢の児童を養育する者へ新学期に支給される、子ども一人につき約3.5万円。イギリスは5歳児から就学、小学校6年、中学5年、高校2年。
・家族扶養手当:両親の一方、または双方を失った遺児等を養育する家族への補助。両親を欠く場合は子ども一人につき月約1.4万円、片親を欠く場合月約1.1万円。
・単身手当:単身の妊産婦または子の養育者への所得補助。手当額は、家族保障所得額から本人の所得額を差し引いた金額。
・乳幼児迎入れ手当:3歳未満児を保育する者に対する給付。@第一子から基礎手当を支給。月約2.2万円を3年間支給。A出産先行手当として出産時に支給。妊娠7ヶ月目から出産1ヶ月後の間に約11.1万円を一括して支給。B職業活動の停止に対する付加給付。月約4.7万円。C保育方式による付加給付。託児所に預けた場合に比べ個人の保育ママを雇った場合の差額を補填など。

●働く女性への支援策

 フランスでは出産や子育てのために退職する女性が少ない。逆に3歳未満の子ども一人を持つ女性のうち約8割が働いている。仕事を一時やめるか、子どもを預けて仕事を続けるか、自由に選択できる。すなわち女性にとっての子育てが自らの就業の妨げにならない環境を築いていて、これが出生率の上昇に貢献している。

 こうした両立生活を支える保育サービスについては保育所や託児所などの施設型サービスよりも、在宅型サービスである「母親アシスタント」制度がある。これは認可を受けた保育士が乳幼児を預かるサービスで、国の保育需要の約7割を担っているて、その費用も乳幼児迎入れ手当で補助される。

 またフランスの育児休暇制度は@子どもが3歳に達するまでに最長3年間の休職Aパートタイム労働への移行などから選択でき、乳幼児保育手当の賃金補助(完全休業で月約6.7万円)が用意されているので、いずれ選んでも、子育てに障害になるハードルは低い。

●約半数が婚外子

 フランスでは最初の子を産む平均年齢が29歳であり、子どもを産む前に職業的立場を確立する傾向が強い。
 また結婚という形をとらないで子どもを産むケースが約半数を占めている。同棲カップルに子どもができても、結婚しないライフスタイルが増えている。婚外子でも法的権利が嫡出子の場合とあまり変わらない。内縁関係を証明する書類を役所に出せば、税金優遇や子育て支援について、正式な結婚とほぼ変わらない待遇も受けられる。

●オールセンの家族手当金庫

 訪問した家族手当金庫は、様々な女性が育児・出産などの相談や手続きに訪れていて、申請書類も窓口に溢れていた。
 120万人のオールセン県の中で子育て給付金を受けている人は24万1千人。2割に達する。そのために700人の職員が8つの支所にわかれバックアップしている。

 フランスの国内でこの県は第一位の出生率であるという。国だけでなく県や市町村も地域特性や様々なニーズに応えようと様々なメニューを用意して支援している。オールセン県のなかには474の保育園があるが、経常費の66%を金庫から支払っている。また、その3割が民間の経営である。

 「子どもが生まれるということは楽しい夢である。その事は国の興亡のカギとなる。日本でも皇室に男子出産という喜ばしいニュースがありましたね」とキッパリ。

■この報告は派遣団の公式報告ではありません■


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