伊藤ひであきの視察報告

視察報告 新上越市の住民自治区 06.06.23

●新上越市誕生

 新潟県の西南部、遠く南方に妙高連山がそびえ、国内有数の穀倉地帯である。越後の政治・経済・文化の中心地だった高田市と交通の要衝として臨海工業地帯として栄えてきた直江津市が合併して上越市となったのは昭和46年、そして35年の時を経て、昨年1月1日、14市町村が合併し、従来の4倍の972kuと東京都のおよそ半分という広大な面積、人口21万人の新しい上越市が誕生した。

 「ものづくりに」に重点を置いた地域産業の高次化や、バイオマス資源利用による新産業の創出に加え、広大な敷地と数多くの観光資源を活用し、力強い産業の育成を図りながら、日本海側の交流拠点都市として着実に歩んでいる。

 この上越市、「副市長制度」「ISO取得」などでしばしば先進的な「自治体行政」に取組み、全国に情報発信してきて、今また「地域自治区」という新しいキーワードを発信する。

●地域自治区の設置

 上越市を始めとする14市町村で設置した上越地域合併協議会では、地域自治区について「地域審議会及び地域自治組織の取り扱い」として協議事項で協議されてきた。(写真右)

 そして、平成17年4月1日施行とする「地方自治法」の改正がなされ、第四節 地域自治区として明文化された。
(地域自治区の設置)第二百二条の四 市町村は、市町村長の権限に属する事務を分掌させ、及び地域の住民の意見を反映させつつこれを処理させるため、条例で、その区域を分けて定める区域ごとに地域自治区を設けることができる。
2 地域自治区に事務所を置くものとし、事務所の位置、名称及び所管区域は、条例で定める。
3 地域自治区の事務所の長は、事務吏員をもつて充てる。
4 第四条第二項の規定は第二項の地域自治区の事務所の位置及び所管区域について、第百七十五条第二項の規定は前項の事務所の長について準用する。
(地域協議会の設置及び構成員)
第二百二条の五 地域自治区に、地域協議会を置く。
2 地域協議会の構成員は、地域自治区の区域内に住所を有する者のうちから、市町村長が選任する。
3 市町村長は、前項の規定による地域協議会の構成員の選任に当たつては、地域協議会の構成員の構成が、地域自治区の区域内に住所を有する者の多様な意見が適切に反映されるものとなるよう配慮しなければならない。
4 地域協議会の構成員の任期は、四年以内において条例で定める期間とする。
5 第二百三条第一項の規定にかかわらず、地域協議会の構成員には報酬を支給しないこととすることができる。

など

 このような中、14市町村の長と議会代表、住民代表で構成する「上越市における地域自治組織の設置に関する検討会」を設置し、検討した結果、合併時から上越市を除く13町村の区域ごとに「地域自治区」を設けることが合意され、合併と同時に設置された。なお、合併特例法により、区域内の住所の表示には地域自治区の名称を冠することとなった。 (○○郡□□町→上越市□□区)

●地域自治区の役割

 地域自治区の設置に伴い、各区には「地域自治区の事務所」が置かれた。事務所には所長を置き、各分野ごとに総務・地域振興、産業建設、市民生活、福祉、教育・文化などのグループを置いて、区域内の行政サービスや事務のほか地域協議会に関する事務を担当している。

 いやゆる平成の大合併で合併後に市役所を「本庁」と呼び、市町村役場を「支所」と位置づけるのが通常であるが、改正地方自治法に従って地域自治区を設け、「地域自治区の事務所」を「○○区総合事務所」としたのである。

 もうひとつ、重要なのはこの地域自治区には、地域の意見を取りまとめ行政に反映させる「地域協議会」が置かれたこと(写真右)。地域協議会は、市の業務で地域自治区の区域に関わるものなどについて、市長や教育委員会などに意見を述べることができるとし、市長は新市建設計画や重要事項の決定などについては地域協議会の意見を聴かなければならないことと意義付けた。
 この地域協議会は住民の主体的な参加を期待するものであることから、委員は無報酬とし、その委員は市長が選任することになっているが、上越市ではこの委員をその区域で選挙された人を市長が選任することが合意され、条例化された。

 こうして最初の委員は市議会議員の増員選挙と同時に行われ、任期も市議会議員と同じ平成20年4月までとし、13の自治区の地域協議会の委員の定数も決め、委員選任投票が5地区協議会で行われた。投票運動は公明正大に行われることを原則に、公職選挙法の例により行った。

●更なる住民自治への取組み

 こうして設けられた地域自治区は、合併特例法により期間を定めることとされているが、上越市の場合は設置期間を5年間とし、この間に市民の声を聞きながら検討していく。また、合併前の上越市区域内に地域協議会を設置する手法も考えられている。

 上越市でさらに特徴的なのは、NPOなどとともに、地域コミュニティ(集落、町内会など)を地域づくりの新たな担い手として位置づけ、これらの活動を支援するための機能を地域自治区の事務所に配置していること。具体的には旧町村役場や公民館などを転用し「コミュニティプラザ」(写真右)をつくり住民と行政の協働を進めやすい環境を整備している。その管理運営も住民にゆだね、住民の公的分野への参画による自主的、自立的な地域づくりの足がかりとしている。

 さらに、上越市では、合併後のまちづくりを進めていく上で「今後の上越市における自治のあり方について、市民が認識を共有し、「自治基本条例」を合併後速やかに制定する必要があるとし、合併後に平成17年1月に「みんなで創る自治基本条例市民会議」が設置され素案作りに取り組んでいる。来年度−平成19年度には条例の公布、施行を目指している。

●視察を終えて

 14市町村の編入合併を成し遂げた上越市、地方自治法改正の動きにあわせ、いち早く地域自治区を具体化し、次々と住民自治の仕組みを作り、展開していく動きは早い。

 我が豊橋市においても「豊橋市総代会」の組織名称を来年度から「豊橋市自治連合会」と改称することが明らかになり、市制100周年を期に「協創、協働、共生の精神にのっとり、行政に積極的に参加していく」としているが、名称変更の次に、こうした住民自治の具体的な仕組みづくりが展開されなければ、意味がない。

 また、平成の大合併の第二段階としての「三河市構想」実現のために、「周辺市町村の住民の福祉の向上に繋がる都市ビジョンを検討していく段階」にあるが、上越市が取り組む地域自治区の展開には大いに学ぶべき点がある。山間僻地の小規模町村や中都市、農村部や工業都市、観光都市とさまざまに個性ある周辺11市町村により構成されているからである。

 一方で、選任投票を経て任命される委員により構成される地域協議会と市議会との関係、協議会委員と市議会議員との関係は今後、どのように役割分担し、まちづくりに連動していくのかという疑問もおこるが、こうした課題にも上越市自身が現場経験を積み重ね新たな方途を見出していくのではないかと期待される。


 視察に際し、上越市議会事務局白石次長、片田主任、企画・地域振興部野澤部長には大変にお世話になりました。特に野澤部長には終始歯切れよい、明快なレクチャーいただきありがとうごいざいました。


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