伊藤ひであきの視察報告

視察報告 金沢の21C美術館 06.06.24

●金沢になぜ21世紀美術なのか

 人口46万人、467kuの金沢市。江戸時代は加賀百万石の城下町として栄え、伝統文化と美しい自然環境を守りながら、新しい文化の創造で「世界都市−金沢」をめざす、質の高い北陸の雄である。

 この金沢に「金沢21世紀美術館」がオープンしたのは一昨年の平成16年10月である。昨年、11月5日に監査委員事務局職員の恒例の旅行に参加して、この美術館を訪れた。
 折から企画展「もうひとつの楽園」のオープニング日で多くの観覧者でにぎわっていた。しかし、約15ヶ所に展示してある現代美術作品の数々には理解しがたく、「心身が時々拒否反応を示してしまう。自分の感性が鈍ってきたのか、作品が自分の感性を超えているのか」と当時の「ひであきの動き、議会の動き」には書いている。

 今回、長野、山梨、新潟と回った視察の最後にこの美術館を加えたのは、土曜日ということもあったが、なによりも「開館して1年半、この美術館がなぜかくも多くの鑑賞者で賑わい、伝統文化の金沢でなぜ21世紀現代美術なのか」を学びたかったからである。そして、折から検討中の我が「豊橋市美術博物館」の改修計画に資するものを得たいと考えたからである。

 対応していただいたのは、開館当時から金沢市役所から出向している総務課課長補佐の西川 哲氏。

●伝統芸術と現代芸術

 金沢大学が移転し、当然ながら付属小中学校も移転し、石川県庁も移転し、中心部の空洞化が一気に進み、危機感を持って石川県と金沢市が共同で「都心地区整備構想検討委員会」が設置されたのが平成7年5月である。実に開館まで10年の歳月を費やし検討に検討を重ねて、この美術館オープンしている。

 「京都から沢山の職人が集まって金沢の伝統文化の華を咲かせた。当時の花形職人とは現代で言えばIT技術者でないのか、金沢が守ってきた伝統芸術は現代の美術表現と違和感があるはずがない。伝統文化の上に『新たな文化の創造と新たなまちのにぎわい』を創造しようとするのが、この金沢21世紀美術館です」と西川氏はキッパリ。
 すぐ近くには石川県立美術館もあり、同じパターンじゃだめ、新しい金沢の魅力と活力を創出するのだという情熱が具体化されていった。
 よって建築コンセプトも「まちに開かれた公園のような美術館」とし、気軽さ、美しさ、使いやすさをキーワードにしていて、それが宇宙船のような夢のある、おしゃれな美術館となっている。土地代に70億円、建物に113億円、周辺整備も併せ総事業費は約200億円。

 開館して半年間で30万人を目指したが、結果は2倍の68万人、この3月までの1年半で200万人が訪れている。県外からは6割の人が訪れ、10代、20代、30代の若い層が多くカップルで、女性グループで家族づれで訪れているのも特徴的。
 @世界の「現在」(いま)とともに生きる美術館、Aまちに活き、市民とつくる参画交流の美術館、B地域の伝統を未来につなげ、世界に開く美術館、C子どもたちとともに、成長する美術館というミッションステートメントを演出している。

●質の高いおもしろさ

 中心部にあること、丘陵地帯に建物がマッチしたこと、アクセスの利便性、兼六園をはじめ周辺景観ととけこんでいること、さらには長く市民芸術村や職人大学校などの文化芸術振興の積み重ねの歴史の厚みがあることなどが作用している、などの様々な要素がかみあって一大ミュージアムを形成していて、おもしろい、もう一度行ってみたいと駆り立てる。

 中心市街地の活性化やまちの賑わいに全国の自治体は懸命であるが、金沢21世紀美術館のありようは、単に年間600万人といわれる観光客によるものだけでなく、それだけの観光客をひきつける都市の魅力そのものではないかと思わざるを得ない。

 また、その陰に東京・大阪・名古屋などへの積極的なPR活動や、マスコミ対応を丁寧にする普段の努力や、企画展示PRGに絶えず斬新性を持たせようとするたえまない努力とエネルギーが隠されていることも忘れてはならない。


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