伊藤ひであきの視察報告

視察報告 ヤマトで自治を考える 06.04.23

 神奈川県大和市。人口22万、面積27平方キロメートルのコンパクトシティである。東京都町田市や横浜市という大都市と隣接し、海老名市、相模原市、座間市、綾瀬市、藤沢市と競争するように囲まれている。おそらく、福祉・環境・教育などの一つ一つの施策に住民は容易に比較できるのではないだろうか。それだけに、世に言う「個性あるまちづくり」は必須なのかもしれない。視察のテーマをレクチャーいただく前に机の上に配られていた大和市の地図を見ただけで、その緊張感とやる気が伝わってくる。これが関東パワーなのだろう。

 4月17日、大和市役所を訪れたのは昨年4月1日から、この大和市では市民・市議会・市長が「大きく和して」目指すべき地域社会の実現に努めると「大和市自治基本条例」がスタートしているからである。

 同条例では「市民の権利及び責務」、「市議会の責務」、「行政運営の原則」など自治体運営を支えるもっとも基本的な理念や仕組みを定めている事から、大和市の最高規範と位置づけられ、「自治体の憲法です」と企画部分権強化推進担当の渡辺チーフは胸を張りキッパリ。

 大和市の市民自治の原則は二つ。「参加」と「協働」である。「地域の事は地域で考え地域できめる」ためには不可欠な要素と位置づけている。当たり前だが、当たり前のことを条例化するところに意味があるのだろう。これまた当たり前であるが、この条例は「市民の手で作り上げた」のだ。定員を設けずに公募した市民中心の「大和市自治基本条例をつくる会」(公募市民26人、学識経験者1人、職員5人)の32人が、18ヶ月の生みの苦しみを経て、素案が作られた。

 際立つのは、パブリックイン・ブルメントという手法である。豊橋市でも市の重要施策には行われている「パブリック・コメント」−すなわち、一定のまとまったものに意見を求めるのでなく、まとまる前からの参加、それも単なる意見発表でなく、相互の議論も視野に入れた手法が「パブリック・インブルメント」なのだと教えられた。(ついでに、「街づくり」はハード中心、「まちづくり」はソフト中心。これも教えていただいた)

 毎月一回の「つくる会会議」を軸に、ワイワイガヤガヤと白紙の状態から活動は始まった。そして、ワーキングチーム、担当チーム等を編成し、市民の中へ「PR・キャンペーン」を展開し、63回の「学習会」を開催し、「ニュースレター」を発行し、182回の会合を積み重ねて条例素案を作った。
 この市民の手による条例素案を基にして、市議会、市長(行政)がそれぞれ修正を加え、三者の協働によってできあがり、平成16年9月議会に条例案が上程され、10月4日市議会定例会・本会議で審議され、同10月7日公布され、平成17年4月1日から施行された。

 条例は全33条でできており、前文に書かれた「市民一人ひとりが個人として尊重されること及び自らの意思と責任に基づいて自己決定することを自治の基本理念とし、安全で安心して暮らせる社会の実現に向けて努力していかなければならない」ための市民、議会、市長(行政)の規範をまとめあげている。
 特に、その基本原則は第4条で「それぞれの責務に基づいて参加し、協働することを原則」としている。また国・神奈川県との関係も「対等の立場で、協力する事を原則」(第8条)としている。

 市民には「自治を推進する責務と責任、負担の分任」(第10条)を明確にし、市には特に「子どもが健やかに育つ環境をつくる責務」(第11条)を求め、市議会には「開かれた議会運営と保有する情報の公開」(第13条)を求めている。更に市議会議員には「誠実な職務の執行」(第14条)を明示し、市長には「効率的な行政運営と職員の能力向上に努める」(第15条)事を定めている。市職員には「誠実かつ公正な職務の遂行とそのための能力の向上」(第16条)を求めている。

 特徴的なのは「市政の重要事項については住民投票を実施する事ができる」(第30条)とし、満16歳以上の者の3分の1以上の者の連署を持って、住民投票のじっしを請求できるとした点である。
 これに伴い、地方自治制度は間接民主制を基本としているが、それを補完するものとして「住民投票条例」もこの3月議会で制定し、本年10月1日から施行する。同条例では16歳以上の市民に定住外国人を含めて投票資格を与えているし、投票率等による成立要件も求めていないなど住民参加意欲を持てる制度としているのが革新的である。

 大和市の「自治」への取り組みはまだまだ続く。制定済みの「大和市みんなの街づくり条例」「大和市新しい公共を創造する市民活動条例」に加え、この3月議会の「住民投票条例」、さらには今後、「市民参加についての条例」「行政評価についての条例」もつくりながら「自治基本条例」を有効たらしめるための仕組みづくりに足取りは軽い。

 「施行されて一年経ちますが、何か変わりましたか」と聞くと、「より多くの人が住民自治を少しでも自分のことと理解できるようになった市民が増えてきた」と答えられたが、「自治基本条例」の類は市民が興味を持ちにくい内容を、それも直ちに住民にメリットを付与する事にはならないだけに、世論は盛り上がりにくいと認識していたが、大和市のように身近な地方政府の運営ルールを「自ら汗をかいて時間をかけてつくる」、その心意気こそ大事であり、分権時代への大きなステップではないだろうか。

 視察に際し、幟川市議会事務局長、企画部渡辺チーフなど大和市の皆さんに大変にお世話になりました。また同席いただいた公明党市議団の池田俊一郎議員にも何かとご配慮いただきました。ありがとうございました。


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