伊藤ひであきの地方からの提言


06論点 二学期制を実りあるものに      2006.02.27

 豊橋市では今年度、小学校7校で二学期制のモデル事業を実施し、4月からの18年度は希望する25小学校で二学期制を実施し、来年平成19年度は、市内の全ての市立小中学校73校に拡大することになった。
 教育委員会は子ども、教師の両面から学校が抱える諸課題を以下のように整理した。

●学校が抱える諸課題

急速な社会の変化の中で、子どもたちの生活は大きく変わり、それに伴う昨今の矢継ぎ早の教育改革が教職員を多忙化へとつなげることとなった。教師が子どもと関わる時間を生み出すことも難しくなる中で、各学校では、様々な課題が浮き彫りとなってきており、その解決が急務となっている。
@子どもの生活
・核家族化と少子化等により、人とかかわる力(人間関係力、社会力)が低下している。
・命を大切にする心や思いやりの心など、倫理観や規範意識の育成が十分でない。
・青少年犯罪の低年齢化・凶悪化が進むとともに、精神的ストレスなどによる不登校児童生徒や発達障害などの子どもが多く現れている。
・家庭の教育力が低下して、児童虐待や家庭崩壊など子ども受難時代を迎えている。

A子供の学び
・授業進度が速く、じっくりと学ぶ基礎・基本や繰り返しの時間が十分でない。
・授業時間の減少と「総合的な学習の時間」の創設などにより、各教科の時間数が削減され、基礎的な学力と学習意欲の低下が危供されている。
・感動体験や本物体験などの学びを通して、社会力や豊かな人間的な感性を身につける学習機会が少ない。
・学ぶ目的や価値、学ぶ楽しさを見出せない子どもも少なくなく、子どもを鍛え、子どもの良さを伸ばす教育が必要である。

B教師と子ども
・多様な子どもの出現や、絶対評価の導入、少人数指導などの矢継ぎ早の教育改革のなかで、業務量が増え多忙感で悩んでいる教職員が増えている。
・教師と子ども、教師相互のふれあいの時間が十分にとれないジレンマを感じている。
 と、様々な課題を列挙する。

●二学期制で特色ある学校づくり

・基本的な考え
 1年を2つのステージに分けるという長い学期の中で、柔軟に教育活動を計画できる2学期制は、教育課程編成への創意工夫の範囲が広がり、学校運営上から見て.一層充実した教育が可能となる。

・考え方の背景
 各学校の抱える諸課題は、その実態により内容も質もさまざまである。学校としては、地域・学校・子どもたちの実態を踏まえ、それに適した教育活動を創り出す必要がある。年間を2つに区切る2学期制は、長いスパンの中で年間行事などを柔軟に設定できるなど、これまで固定的にとらえていた教育活動を改めて柔軟な姿勢でとらえなおすことのできる制度である。
 ここに着目し、各学校が自校に最も適した形の教育課軽を創出することをねらいとして、2学期制を推進していくことにした。

 本来、教育活動は各学校独自のものである。子どもたちに、それぞれのニーズに応じた力をつけていくことが求められている現在、各学校における教育活動に特色や違いをもっていることは当然である。
 子どもの実態をふまえ、全職員の創意を結集し、実態に応じた教育計画を立案していくことで、各学校で抱えるさまざまな課題を解決しながら独自の学校づくりを推進していく。

 地方分権の進む中で、本来の学校の姿を考えた時、学校の独自性を高めることが教育本来のあり方である。その教育活動を用意する中で、教育成果をあげていくための2学期制、それが本市の目指す二学期制である。

 と高らかにファンファーレを鳴らす。

●研究校が提示する課題

@学習や生活の伝達について
 教師は、夏休み前に学習状況の伝達が効果的にできたと考えているが、保護者は必ずしもそう考えてはいない。各学校での伝達方法について今一度見直し、保護者への理解を得ていく必要がある。

A長期休業日の設定について
 兄弟間での休みのずれに問題を感じる意見が、保護者からも児童からも多くあがっていたことについては、中学校ブロック内の学校間で調整を図っていかなければならない。

B指導計画の工夫について
 自校の指導計画への工夫については、教師の約3分の1が「まだできていない」と考えており、今後、努力していく必要がある。学期の長いスパンを生かして各校の特色を生かした学習活動を創造していきたい。

C中学校の準備状況について
 各学校の最も関心があるのは、進路に関する事柄である。多くの学校が12月にも成績を出すと考えているが、その具体的な通知方法については現在各学校で検討中である。また、ゆとりと充実のある子どもの暦づくりを各学校とも検討・作成中である。

 これが豊橋二学期制導入の背景と大意である。

●豊橋は錦の御旗をまちがえていないか

 一昨年秋、鳥取に二学期制の視察に出向いた。その内容は視察報告「鳥取で二学期制を考える」でまとめている。
 鳥取は「ゆとりある学校生活を通じで子どものためになる教育実践」を基本的な考えとしている。
 よって、私は視察のまとめとして、「二学期制のポイントは教育現場に『ゆとり』を生み出すことができるかどうかである。しかし、その『ゆとり』は教師が楽になることでも、児童生徒がゆるも事ではないはずである。
 教師がそのゆとりを児童生徒にしっかりと向けていく事ができるかどうかに2学期制の成否はかかっているように思えてならない」と結んでいる。

 鳥取だけではない、金沢市でも「学期のスパンが長くなり体験学習や問題解決学習、反復を伴う学習などを工夫し、じっくり取組む時間が確保できる。特に各種行事で忙しくなる3学期は、以前より学習面でゆとりができる」とし、平成16年度より完全実施している。
 仙台市でも「ゆとりの教育」を実現する目的で平成14年度から実施している。「長いサイクルでじっくりと学習する機会が取れ、授業時間が従来以上に確保できるなど時間にゆとりができた」と評価している。

 など、全国で広がる二学期制の動きは「問題解決の授業に有効、授業計画にゆとり」という教育現場の必然性がベクトルになっている。

 「ゆとり教育」とは児童が次のようなことができることです。・一つの課題にじっくりと取り組む・基礎基本を繰り返し学習する・発展的な内容を追求する・先生とのふれあいの時間を十分に持つ・教育相談を十分に受ける

 しかし、豊橋では「二学期制で特色ある学校づくり」が錦の御旗である。冒頭に長々と引用した教育委員会が提示した「学校が抱える諸課題」を見ていただきたい。

A子どもの学び
・じっくりと学ぶ基礎・基本や繰り返しの時間が十分でない。
・各教科の時間数が削減され、基礎的な学力と学習意欲の低下が危供されている。
・社会力や豊かな人間的な感性を身につける学習機会が少ない。
B教師と子ども
・業務量が増え多忙感で悩んでいる教職員が増えている。
・教師と子ども、教師相互のふれあいの時間が十分にとれない。

 総じて「ゆとりのなさ」を羅列している。どこにも「特色ある学校づくりができない」とは問題提起していない。

 今までの三学期制では特色ある学校教育はできなかったのであろうか。二学期制ならできるのであろうか。
 「特色ある学校づくり」は「子どもの学び」「教師と子ども」の課題解決のポイントになるのか。
 何度、「学校が抱える諸課題」を読んでも「特色ある学校づくり」とリンクしているとはとても思えない。何のための「特色ある学校づくり」であろうか。

 現状を分析し(学校は抱える諸課題を精査する作業)→要因を導き出し→対策を立てるQC手法から、どうしたら「特色ある学校づくり」の対策が導き出されるのであろうか。

 まちがえてはいけない、「教育は子どもたちのためにある」のである、決して「教育のために子どもたちがいるのではない」。
 ましてや、平成16年11月16日に行われた「二学期制シンポジュウム」の基調講演は「子どもにゆとりと確かな学力を」というテーマで始まったのではないのか。どこでどう変わってしまったのだろうか。

 行政評価システムから「 学校経営の評価において、学校教育目標について全職員が共通理解をし、具現化について80%以上努力したと回答した学校数/市立小中学校数」をみれば目標達成率は平成15年度89.00%、平成16年度97.90%と三学期性の中でも一定の成果を挙げているではないか。
 五並中学の「連凧ギネスへの挑戦」、天伯小学校の「天伯湿原の環境教育」、植田小学校の「のぞめの会」、東部中学校の「東部コミュニティ大学」、地元、旭小学校の「ひなまつり集会と地域連携」等など盛んに行われているではないか。

 極端なことを言えば子どもや、教師が抱える問題をそのままで「学校の独自性を高めること」ができて何になるのだろう。

●教育革命は教師革命

 現在の教育がかかえる問題の本質はあまりにも根深い。制度の改革だけでは「学校が抱える諸課題」を解決できるほど容易なものではない事は明白である。二学期制にさえすれば力がつくのではなく、一人一人の教師が目の前の児童生徒について熱い思いを持って共に学校生活を送っていく事がすべてであり、そのことが二学期制という新たな制度を効果的に活用する要ではないだろうか。

 学校・地域・家庭の連携が叫ばれ続けている。しかし、この三位一体の中ではやはり学校が頑張らなければならない。学校が頑張るという事は教員が頑張る事であり、「教育は人」であり「教育革命」は「教師革命」である。

 新たな二学期制という制度に学校・生徒・教師が合わせるのでなく、校長を先頭に新たな、特色ある学校経営を新たに始めて行く事ができるかどうか−二学期制を実りあるものにするための最大のポイントはここにあるのでないだろうか。

参考:視察報告「二学期制を鳥取で考える」


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