伊藤ひであきの視察報告

視察報告 岡山の通学区域弾力化 06.01.20

 広島に次ぐ中国地方の雄都―岡山市。政治・経済・文化などの中枢管理機能が集積する中核市は、昨年3月に御津町・灘崎町と合併し、人口67万人、面積658kuの新岡山市が誕生し、政令指定都市への移行を視野に入れながら、「国際・福祉都市」の実現を目指している。 。

 岡山へは公立で中高一貫教育を始めた市立岡山後楽館の視察で以前にも訪問したことがあり、早くから学校司書を全小中学校に配置するなど先進的な「岡山の教育」は今度は「通学区域制度の弾力化」に踏み出している。

 岡山市での中心市街地では、少子化と空洞化でエリア内の人口が減少し児童数も減少していることや新たな学校教育を推進していくため、小学校の統廃合が行われて連続して行われた。平成13年には4校が2校に、そして昨年春に、その2校が統合し市立岡山中央小学校が開校した。
 その過程で、特例として中心部の子どもたちが適性に応じた学校を選択できるように通学区域制度の弾力的運用を始めた。さらに岡山市教育行政審議会は「通学区域制度の弾力化については、中心部の新しい学校だけに限らず、全市的に検討する必要がある」と答申した。

 よって岡山市教育行政審議会は「岡山市通学区域制度弾力化検討委員会」を設置し、本格的な審議を開始。検討委員は学識経験者、保護者代表、校長会代表、市民の代表等の12名で構成されており、特に弾力化の意義と課題について協議を重ねた。通常、このような検討委員会では一定の方向性に向けて審議されるが、全くの白紙状態で検討を重ねたという。

 意義として
@子どもの個性・適性に応じた学校選択が可能になる。
A選ばれる学校として、学校の特色作りが積極的に展開される。
B学校・保護者・地域と協働し、活力ある学校づくりの好機となる。
 課題として
@学校間競争や格差が生じるのではないか。
A小規模校がさらに小規模化するのではないか。
B地域社会と子どもたちのつながりが希薄になるのではないか。
 そこで平成15年2月には「通学区域制度弾力化についてのアンケート調査」を実施した。調査はA市立小学校82校の5年生児童及び市立中学校33校の2年生生徒各1クラス
B市立保育園42園、市立幼稚園68園の5歳児の保護者及びAの保護者
C市立保育園、幼稚園、小学校、中学校の全教職員
D各小中学校10名程度の地域住民
E岡山市に在住している市民で、市役所、支所、公民館などにアンケート用紙を設置。

 その結果、DとEの回答1,010人を含めて12,506人の回答を得た。
内訳は「学区を弾力化することについては」賛成とどちらかといえば賛成は48.3%。その理由で一番多かったのは「個性や適性等に応じて希望する学校を選択することができる」「学区外でも、家から一番近い学校や交通の便のよい学校に行くことができる」が目立った。
 どちらかといえば反対と反対が33%。その理由は「子どもや学校と地域社会との関係が希薄になる」が最も多かった。また、わからないが18.5%という結果。
 特に教職員の間では賛成とどちらかといえば賛成は37.7%と想像以上に賛意があったという。教職員に行った「学校選択ができるようになった場合、どのような取り組みが必要か」という問に対して「魅力ある学校、特色ある教育を創造する学校」が最も多かった。
 また、「通学区域が弾力化された場合、お子様が小学・中学校に入学するに当たって指定校の変更をしたいと思いますか」については保護者の回答者の中でぜひしたい、できればしたいと答えたのは21.4%となった。
 これを受けて、「検討委員会」では弾力化を前向きに検討することを確認。

 次いで、四つの弾力化実施プランを示して検討した。@市内全域から自由に学校選択が可能となるAプランA市内を5ブロックに分けてその中から学校選択が可能となるBプランB地元の学校区に隣接した学校区から選択が可能となるCプランC地元の学校から一定の範囲内の学校から選択可能としたDプラン。
 様々な論議を経て、Cプラン(居住地の学区及び隣接した学区の学校の中から選択できる)を決め、遂に平成16年4月、教育委員会は弾力化の方針を決定。平成17年4月に入学予定の新入学児童・生徒より実施するとして、各学校の受け入れ枠などの条件整備や配慮事項も取り決めた。

 平成17年の新入学の6672人のうち選択希望申請者は全部で134人、希望者多数の3校では公開抽選となり、実際は114人が希望学校に入学した。
 隣接している小学校を選択した理由として@通学距離が短い、通学路が安全、A幼稚園・保育園の友達と同じ学校が良いの割合が多かった。
 中学校では136人が従来の学区を変更した。その理由として@教育方針、校風、雰囲気などに賛同Aしたい部活動の有無、選択する学校の部活動を希望などが目立った。

 岡山の通学区域弾力化は始まったばかりであるが、幼稚園・保育園は自由選択性であり、小中学校の子どもたちが個性や適性に応じた教育を選択できることは当然かもしれない。
 また、それを受け入れる学校側も学校間の切磋琢磨や、より一層特色ある学校づくりに努めて質的向上や学校の活性化が図られるとするなら画期的な規制緩和でもある。その成り行きに注目したい。

 視察に際し岡山市議会事務局富永主事や教育委員会近藤主幹をはじめ多くの皆様に対応していただきました。ありがとうございました。


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