伊藤ひであきの視察報告

フルーツ王国の農業特区 04.10.22

 笛吹川、万力林など美しい自然と豊かな歴史に育まれ県下随一を誇る果樹農業が盛んな山梨市。人口3万2千人、面積53kuのコンパクトなまちは「万葉ロマンと果実のまち」。
 フルーツ王国山梨県の中でブドウは勝沼町に、モモは福島市についで全国2位の出荷額を誇り、「ブドウとモモを併せた出荷額では全国一だ(小林 孝産業観光課主幹課長補佐農業担当)という。

 山梨市の農業は昭和30年代までは米作・養蚕が中心であったが、肥沃な大地と寒暖の差が激しい盆地特有の天候を生かして、高能率な集約的農業が展開されている。
 山梨市の農業経営面積は1,218haで果樹園は1178ha、全耕地の97%を占め、有数の果樹地帯を形成しているが、市を二分する笛吹川右岸のそれは662haで遊休農地は73haで市内の遊休農地面積の91%を占めている。

 全国的にもこの遊休農地が問題になっている。この要因は全国共通的に高齢化・後継者不足である。
 それで山梨市では遊休農地の有効活用と遊休農地化を防ぎ、農業と地域の活性化を図ろうと、山梨県とも連携して農業後継者育成資金や遊休農地改善利用集積補助金、中核農家等規模拡大育成推進事業補助金などの取組みを行ってきたが大した効果は上がってこなかった。

 そして、昨年5月、山梨市は「山梨市農地いきいき特区」を申請し、この笛吹川右岸を特別区域と定め、新たな構造改革特別区域法による、規制緩和の特例措置により特区戦略を展開することになった。

 今まで農地法や特定農地貸付法、市民農園整備促進法により農業経営を行うために、農地を借りたり買ったりすることができる法人は、農業生産法人に限られ、株式会社などへの農地の貸付、株式会社などによる農業経営、市民農園の開設はできなかった(開設者になれるのは農地所有者、地方公共団体、農協だけ)のがこの規制緩和で可能になった。

 この事業による特別区域を笛吹川右岸と定め、この区域に株式会社等の農業参入が図られれば、高齢化、後継者不足等によって遊休化している農地の解消と、その進行に歯止めをかけることができるばかりか、優良農地の確保と保全を進め、整然とした農地を維持するとともに、都市と農村との交流も期待でき、農業振興の推進が可能としたからである。
 そして、いきいきとした農地活用により山梨市の農業、商工業の振興や果樹地帯のイメージアップを図り、果樹生産量の向上を測ろうとする。文字通り「農地いきいき特区」である。

 その手順は以下のとおり。
@山梨市が株式会社などの法人に農地を貸し出すために、農地の提供者を募集する。
 耕作をしていない農地および高齢で後継者がなく耕作するのが困難な農地の所有者で、農地を貸したい人は市産業観光課に登録申請する。申込まれた農地は市において登録し、農地を借り受ける株式会社などの法人が参入を希望する場合、所有者と協議し契約を締結したうえで貸しいただく。

A山梨市は参入希望の株式会社などに農地を貸し付ける。
 市と農業参入法人との主な調整
  ○市は貸借できる農地の情報を提供。
  ○事業参入資格申請に基づいて、市の審査会が判断。
  ○農地所有者と市、農業参入法人との間で賃貸借契約書の締結(いづれも5年を基本、延長可)。
  ○市と農業参入法人との間で協定書の締結。
  ○農業参入法人は、事業目的によっては農業を担当する役員の位置付けが必要。
  ○農業経営等の参入については、農地法の許可が必要
(農地法第3条では賃借権・使用収益権の設定について規定しているが特区法第16条により下限を50aと設定して許可が可能、また市民農園の開設は市町村・農協に限らず特区法第23条により第3条許可が不要となり市民農園開設が可能)

 あれから1年半、山梨市フルーツパーク株式会社が参入し、農地約60aを借り受け、都市住民や児童生徒を対象に農業体験や、市民農園の開設を計画している。
 また、市内に本店のある総合スーパー「日向」が64aを借り受け地産地消、安全・安心・新鮮を消費者に提供する目的で苗の植え付け等を実施。
 さらに、「体験活動教育特区」(山梨県の申請による特区で、高校通信制課程において農業体験し単位として認める)と連携し、「いきいき特区」で借り受けた農地で農業体験し、有為な人材を育成しようと「特区」と「特区」の連携は全国でも珍しい。
 最近では山梨市民農園「夢ファーム」の開設を目指し「県単農村景観形成事業」と連携し42区画を整備中で広く京浜地方に販促に出かけているという。

 全国で「地域自ら考え、行動する」ことにより「地方は変われるか」が改めて問われています。そしてその試金石として昨年「特区」制度がスタートし、今や全国で188の特区の特区構想が動いて、現在は第6次提案の受付という段階である。
 また各自治体の厳しい財政事情に加え、地方の景気回復が遅れていることから、地域の再生を目指す「地域再生本部」が昨年秋に設置され、全国で214の地域が「知恵と工夫」を競う新たなる地域間競争に突入している。

 こうした中でこの「山梨市いきいき特区」は遊休農地の有効利用という全国の共通課題に果樹農業という特性と、首都圏から車で1時間という地の利、そして東京・京浜・関東という大マーケットをバックにして間違いなく成功例のひとつであろう。

 山梨市駅前の区画整理も仕上げの段階にあり、山梨市は市制50周年を迎えた。新日本三大夜景に選定された笛吹川フルーツ公園からの夜景はすばらしい。
 それ以上に、甲斐の山々が陽に映えてブドウ色に染まり、若き中村照人市長を先頭に山梨市のまちづくりは間違いなく山梨の明日に向けて確かな歩みで出陣していた。

 視察に際し、山梨市議会事務局の関 健次長を始め、山梨県公園公社の石原常務理事にも大変に丁寧なレクチャーをいただきました。また、ご多忙な中、中村市長にまで山梨市のご説明を頂き大変にありがとうございました。


 参考までに我が豊橋市は農業産出額は538億円(02年度)で日本一であるが、総農家数6358戸で割ると1農家あたり1470万円、山梨市のそれは82.6億円で2121戸の総農家数で除すると389万円となる。農家1戸当たりの経営耕地面積は豊橋市は1.02ha、山梨市は0.57haとなる。豊橋は産出額の52%は野菜である。
 また5625haの農地のうち10.5%に当たる590haが遊休農地であり、市では地区別遊休農地活用検討会を開催し、対策を進めている。耕作するつもりがない人に「誰に貸したいか」を調査したところ「市が介入した人」が129戸と最多であった事を最近、公表している。


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