伊藤ひであきの視察報告

我孫子の飽くなき挑戦 04.10.19

 10月19日、豊橋市議会行財政改革調査特別委員会(委員長=伊藤秀昭)は千葉県我孫子市へ。
 平成11年度をもってすべての補助金を廃止し、第三者機関による審査と公募制を導入した「補助金改革」の調査研究のためである。

●市民自治のまち
 我孫子市の市制施行は昭和45年、人口13.2万人、面積43.19ku。上野駅から常磐線で約30分の位置にあるだけに人口急増の経過を経て、首都圏の住宅都市としての性格が強い。その分、職員採用や学校建設など急速な社会インフラ整備を余儀なくされてきた経過がある。
 また、我孫子市は手賀沼で有名であるが、この手賀沼が長く水質ワースト1にランクされ、その水質浄化のために立ち上がった市民運動から生まれた天ぷら油から作った粉せっけんで環境への負荷を減らそうとした活動などが原点となり、市民発議の市民活動が活発で、社会貢献活動団体だけでも300を超え、NPOが23団体と「市民自治のまち」を目指している。

●全ての補助金を白紙
 我孫子市の「大胆な補助金交付制度の見直し」については当然、それなりの背景がある。
 昭和61年からの第一次行政改革での「補助金の見直し」は思い切った改革が進まず、市民活動の高まりとともに多様な補助金の要望が増加しつつも、予算枠にも限度があるためなかなか市民ニーズに応じきれない状況であった。
 そのような中、第二次行政改革がスタートし、補助金を全面的に見直すため、平成11年度をもってすべての市単独の補助金を白紙に戻し、平成12年度分からは、既得権にも左右されず同じスタートラインで審査し、適切に交付できる制度に改革しようとした。

●客観性と公平性を担保
 そして、新制度では過去の見直しの反省から、既得権や前例にとらわれない客観性と公平性が確保できる制度であること、時代に適した新規の事業に効果のある適切な補助ができることなどを主眼に検討して、第三者機関による審査と公募制の導入を決定した。
 公募の対象となる事業活動は、市民の福祉の向上及び市民の利益につながり、公益上の必要性が認められるもので、応募資格は、市内に在住・在勤および在学する者10人以上で構成され、活動拠点の事務所が市内にある団体とした。

●補助金は最長で3年間
  補助金の交付は最長でも3年間。公募は毎年実施するが、交付は初年度応募が3年、2年目応募が2年、3年目応募が1年となり、4年目にすべての補助金はいったん白紙に戻り、新たに審査を受けることになる。

●市民の検討委員会
 さらに平成10年12月に我孫子市補助金等検討委員会を設置。委員は5名で任期3年。選任方針は
1 客観的に判断できる立場にいること(=市内のどの補助団体にも属していない。)
2 学識経験者・行政経験者(我孫子市OBを除く)・市民で構成
3 男女の比率は半数程度とした。

 委員会は独自に「審査判定基準」を作成し、時代度、実現(目的達成)可能度、創造性(もしくは独創性)、我孫子らしさの4項目についての審査を行い、委員各自が採点をして集計し、それを基に全員協議によってランク付け(4段階)をして、付帯意見とともに提言書としてまとめられ、最終の判断は市長が行い、議会の議決で決定される。

●補助金の新陳代謝
 初年度の応募は58件(うち新規14件)あり、市の施策によって制度化する補助金52件(うち新規1件)とあわせて110件が第三者機関の審査対象となった。
 このことにより、新規の事業に大きな参入余地をつくりだすことができ、補助事業の新陳代謝を図ることができたとも言える。また、補助金の総額としては、前年度比で約1,458万円の削減となった。

 平成13年度及び平成14年度は、新規追加事業のみの審査を行い、平成13年度の審査結果は申請件数11件(うち公募8件、施策3件)に対して7件採択(公募4件、施策3件)された。
 また平成14年度は申請件数6件(うち公募4件、施策2件)に対して3件採択(公募1件、施策2件)された。
 採択された10件を部門別で分けると、保健・福祉3件、産業・経済1件、教育・文化3件、その他3件(主に環境)となっている。

●公開ヒアリング
 また提言書で評価の低かったランクの団体が、再度活動のPRや説明をする場として公開ヒアリングを実施した。また、文書によるPRや意見も同時に受け付けた。
 こうして制度化された補助金公募と市民審査は平成15年度は2回目の全件見直しとなり平成15年度の公開ヒアリング対象件数は28件、ヒアリング実施14団体、文書によるPR等10件だった。

●事業の成果
 平成15年度補助金交付結果は公募分47件のうち採択は31件で約66%、施策分71件のうち採択は63件で約88.7%だった。
 12年度に新制度を実施し、15年度が2回目の全件見直しとなることから、すでに交付実績のある団体に既得権を生じさせないために、自己評価表の提出を義務づけ、検討委員会の審査資料とするなどなどの工夫も凝らしている。

 この結果、申請のあった公募補助金47件(継続38件)のうち採択は31件(継続分24件)となった。継続分は1/3以上が不採択となり、新規は8割近くが採択され、3年前の見直しに続いて新陳代謝を図っている。

●今後の課題と展望
 公募補助金は団体の自立に向けた補助金であるため、市民活動支援課の施策として、市民活動団体のレベルアップ講座の開催や発表の機会を持って、団体の自立に向けた取り組みを強化していることも見逃せない。

 また。3年ごとに全ての補助金を白紙に戻し市民の視点で見直すことや、団体の自立に向けた新たな取り組みを行うことで、市民活動全体が活性化し、市民自治のまちづくりを進めていく大きな力に変えていこうとしている心意気が伝わってくる。

 また、公募団体の補助要望額は、予定事業費の10〜50%の範囲内と定められており、事業費の中には人件費や飲食代は含まれていない。人件費ぐらい自分たちで用意できない団体は自立できないという判断からである。

●市長と議会と検討委員会
 さらに、補助金の額はあくまでも当該年度予算の範囲であり、予算査定の中で最終的に決定されることになり、検討委員会は審査した補助金の順位づけを行なうとともに、付帯意見を付けて採択・不採択の提言書を市長に提出する。その提言に基づき、市長が採択とした補助金は、所管すべき部署が振り充てられて、予算要求のレールに乗ることになる。
 それで各年度の予算編成方針により減額されることもあり、決して定額を保証するものでも、100%要望額を担保するものでもないところに検討委員会と市長と議会との役割を明確にしている。

●改革次々
 我孫子市は隣接する柏市・沼南町との合併には参加しないことを決めている。それだけに今の規模の良さを生かし、独自のまちづくりをさらに発展させる道を選んでいる。
 そのためにも、大胆な改革を実行し、改革を怠れば、合併してもしなくても潰れてしまうというプレッシャーを課している。

 現在は次の大胆な「8つの提案」の実現に取り組んでいるがどれもユニークなので紹介します。
1.市長の多選を条例で制限する。
2.議員立法できる市議会にするため、議会の定数を思い切って減らした上で、体制強化を図る。
3.常設型の市民投票制度をつくる。(平成16年3月議会で可決、成立)
4.より徹底した情報公開を目指し、市・県・国会議員からの要望は、文書に記録し情報公開する(昨年8月から実施)。自治会や業界団体、各種の連合会からの要望書は、市の回答と合わせて市民に公表する(昨年11月から実施)。
5.市税収入に対する人件費の割合を制限。税収が減れば、人件費も減らす(職員数の削減と給与水準の引き下げ)というルールを確立し、市民サービスに投資する財源を確保する。
6.コミュ二ティビジネスで地域を括性化する。シニア世代が定年後、豊富な経験を生かして地域で活躍できる環境をつくる。
7.「子ども総合計画」を推進し、一番子育てがしやすいまちを目指す。若い世代に魅力のあるまちをつくる。
8.バスも活用してJR成田線沿線の交通利便性を向上させる。

 など、手賀沼の水質浄化のために市民が立ち上がりワースト1を脱出するまでの懸命な取り組み以上に、厳しい地方財政の中で生き抜こうとする我孫子の飽くなき挑戦はまだまだ続く。

 視察に際し、我孫子市議会議会事務局の皆さんに大変にお世話になりました。ありがとうございました。


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