伊藤ひであきの視察報告

福島の自転車を生かした街づくり−福島市 2003.07.01

 福島県の県庁所在地ー福島市は緑豊かな自然に恵まれた746kuという広大な市域を有する。我が豊橋が260kuであるから、広いと思っていた豊橋の3倍である。

 市のシンボルは信夫山(しのぶさん)で、芭蕉の句にも読まれた信夫文知摺(しのぶもちずり)は有名、東に阿武隈山系、西は吾妻連峰に囲まれた盆地であり、山形新幹線は福島が起点であり、太平洋と日本海を結ぶ交通の結節点である。
 人口29万のこの福島市がめざすのは「しのぶの里に自然と人情が織りなす人間尊重都市である。

 その一端であろうか、自転車で安全・快適に利用できるような環境整備を行って、誰もが使いやすい自転車交通の整備に取り組んでいる。
 自転車を、使いたいときにいつでも使え、機動性も高く、我々の日常的な交通手段として定着させようとしている。

 その背景は福島市は地形が平坦で、降水量も全国平均より少ないなどの、地形的、気候的特性などから通勤通学などに用いられる自転車利用の割合も高い。全国平均の1,5倍である。

 その環境整備を行おうとするのが福島市自転車利用環境総合整備事業。

 今まで歩行者との混在交通、若しくは自動車との混在交通を余儀なくされていた自転車の走行空間を、可能な限り分離する事により、自転車・歩行者・自動車の各々の立場から安全な道路環境を整備するほか、放置自転車の対策とあわせ地下駐輪場やミニ駐輪場の利用促進により走行空間と駐車空間の整備促進を図る。

 さらには、レンタサイクルの充実や駐輪施設のネットワーク化などにより中心市街地の活性化も図る。

 試みは具体的である。具体的であるがゆえに、その成果を期待するが、イマイチの感はゆがめない。

 豊橋もそうであるが、「自転車の街づくり」「スポーツの街づくり」「市電を生かした街づくり」「環境文化都市」「530のまち」などなど縦割り行政の象徴のようなスローガンが次から次へと並んでいる。どれもそのスローガンの下に施策がぶらさがっている。

 しかし、それがそのまちの深化と活性化にどう結びついているのかは豊橋では曖昧である。福島市において「自転車」のキーワードの結びつきが深いとは思えない。それだけに取組みについてはもっと徹底する必要があるのではないのだろうか。ましてや中心市街地の活性化に「自転車」を使うというユニークさをぜひとも花を咲かせて欲しい。

 それにしても、北へ向かってくると不景気感は根強い。併せて「愛知はいいですね」の言葉が返ってくる。 街のこのる。り東京から約100km、北関東の中心都市−宇都宮市は東北新幹線、東北自動車道などが貫通する交通の要衝である。江戸時代には宇都宮藩の城下町として栄えた歴史の街でもある。

 その宇都宮市が平成8年の市制100周年という区切りに取り組んだハード事業が三つある。宇都宮美術館、宇都宮市冒険活動センターそしてこの宇都宮市農林公園「ろまんちっく村」である。
 46haの広大な敷地の中に交流ゾーンと体験ゾーンが交錯しさわやかな空間を作り出している。総事業費1,487百万円、農業構造改善事業として75億円、うち約半分の36億円が国の補助金である。市単独事業としては73億円が費やされ用地取得やいこいの広場、つるの里、駐車場等整備に費やされている。

 事業主体は宇都宮市であるが、運営主体は株式会社ろまんちっく村の第三セクターである。

 交流ゾーンの目玉はろまんちっく温泉館と地ビールレストラン、宇都宮物産館である。クア・露天風呂・レストランなどからなる温泉館は50室の宿泊施設も有し絶えず90%以上の回転率であり、宇都宮インターから近いという交通アクセスの利点を生かし信頼できる公共の宿としても人気が高いという。クア施設は年間10万人、露天風呂は200万人、宿泊施設は1万人と開設以来7年間利用者が減らないところが強い。また地域農業者との連携で行われている青空市(野菜・果実などの販売事業)は好評で年間2億円を売るというろまんちっく村の自主事業である。約120人の地元生産農家と連携し地元JAが販売し、鰍まんちっく村が管理している。また、そば処くにもとからのそば打ち会、地ビールの製造販売などメニューは豊富。「新しい農林業振興の拠点を形成」しようという事業コンセプトの具体化でもある。

 体験ゾーンの目玉は市民ふれあい農園(クラインガルテン等)や雑木林を活用した森林浴・散策の広場である四季の森やろまんちっく広場である。

 開園して7年間、毎年来園者が100万人をくだらないという実績がすべてを物語る。その陰にはこのロマンチック村の入場料は無料という英断である。総売上高15億円は公園部門を宇都宮市からの委託料約3億円を含んでの数字であるが、見事に黒字経営となっている。  農林公園構想が具体化されつつあった平成2年にこの地から温泉が湧出したことも幸いしている。

 ドイツのロマンチック街道にならって、栃木県宇都宮市から長野県上田市までの幹線道路をロマンチック街道とし、その出発点であるこの地を「ろまんちっく村」とした取組みは意欲的である。

 豊橋市も資源化センターの余熱利用の一環としてPFI事業との連携も視野に温水プール建設構想が進んでいるが、そもそもこの構想は焼却炉論議のなかから伊藤秀昭が提案した「豊橋環境村構想」とのリンクが前提であったはずであり、温水プール単独では成り立たない話でもある。国道23号豊橋東バイパスの道の駅などとの共用も含め、その成功例が宇都宮にあった。


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