伊藤ひであきの地方からの提言


ワールドカップが残したもの 2002.06.30

●ありがとうニッポン
 「ニッポン、ニッポン」と絶叫するサポーター達。日本中がこれほどまでに沸く事が予想されたでしょうか。ワールドカップ一歩手前で無念の涙を呑んだ8年前の「ドーバの悲劇」、そして1勝もできなかった4年前のフランス大会。

 世界のサッカー地図では辺境の国だった日本が、仰ぎ見た強豪と方を並べるまでに成長し、ベスト16への進出です。この4年間のトルシエ監督とその"息子"達が費やした長い時間と膨大なエネルギーに思いを馳せる時、日本・トルコ戦が終わったあと、スタンドから沸き挙がった「ありがとうニッポン!」の大合唱に思わず一緒に声を出したくなる衝動に駆り立てられます。

●アジアでサッカー外交を
 そして、共同開催国の韓国の驚異的な粘りとすさまじい闘争心には圧倒されます。それ以上に、日韓の若者たちが不幸な過去の歴史を乗り越えて応援しあう姿に、新しい日韓の歴史が刻まれていくのではないかと期待がつながります。

 韓国と北朝鮮、そして日本と中国の4カ国による「東アジア杯ができればいいなあ」とふと思います。W杯と五輪の間の年に、競ったらどうだろう。ますます切磋琢磨して、アジアのサッカーはレベルアップするでしょう。そして、何よりも膠着状態の政治に先んじて北朝鮮を輪の中に入れるメリットは大きいはずです。ピンポン外交ならぬサッカー外交です。

●新しい世界観の芽生え
 地球儀や世界地図が売れているという。パラグアイってどこ?スロバニアはどこにある?世界地図や地球儀を見ながら、子供たちはいろんな出場国のことを知ったのでしょう。

 それは世界の中の日本、地球は一つという認識のはずです。W杯がなければ、大分県中津江村の存在やカメルーン文化なぞついぞ知らなかったでしょう。淡路島にイングランドチームが滞在し、子どもたちがベッカムと共有した時間は例え短くても、大きな夢を沸き立たせた事でしょう。

 W杯もまた世界化の一旦でしょうが、それによって日本も世界もさまざまであるという多様性を認識し、新しい世界観を作っていきます。

 ブラジルから帰化した三都主アレサンドロの活躍、ヨーロッパから戻った中田や小野、稲本の活躍、これらは長い間の日本の純血主義や島国根性を脱け出し、サッカーだけでなく社会も企業も個々人がどれだけ世界標準に達しているかが、勝負を決める、すなわち国際競争力を高める決め手であることを教えています。

●遺産を生かすのはこれから
 ワールドカップが様々な情報を提供している中で、日本の社会は長い不況で暗鬱そのものです、政治はスキャンダルにまみれ、展望が開けないままの八方塞です。その反動のようにサッカー熱は膨らんでいきました。

 個人の突破力と組織の団結力がかみあってぶつかり合っていくサッカーという世界共通のルールに従って、丸いボールを介しての国と国の名誉をかけた戦い。そこには政治や軍事、経済の大国、必ずしもサッカー大国ならず、途切れぬボールの動きの果てに非情な結果のみが鮮やかに残ります。この落差が世界中を沸き立たせたのでしょう。

 ワールドカップが終わり、熱は冷めて生きます。しかし、その遺産を生かすのはこれからです。


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