伊藤ひであきの地方からの提言


'10新春 患者の側から公立病院経営を考える       2010.01.24

●地域医療を担う市民病院

 豊橋市民病院は1996年に現在の場所に移転(跡地は「こども未来館(ココニコ)」)して14年、病床数910床、診療科26科、医師数170人、医療技術士150人、看護士700人、事務職員など53人と全国公立病院の中ではトップクラスの内容と規模を誇る。

 入院患者は一日平均760人、外来患者は一日平均2300人が利用し、この地域唯一の第三次救急医療をになう中核病院、地域がん診療連携拠点病院であり、がん相談コーナーや緩和ケアチームがサポート体制をとっている。

 また地域周産期母子医療センターが開設されていて産婦人科医師10人、小児科医師18人で対応しているが、平成25年までに「総合周産期母子医療センター」にグレードアップする予定。東三河では、産婦人科医師が不足し、公立病院でも診療制限が出ており、ニーズは高まる一方。対象を東三河全域に広げ、今後、母子胎児集中治療管理室や周産期救急情報システムなどの整備を進め、合わせて助産師外来との連携を進める。

 病診連携では、来年度、既存の病診連携室と医療相談室を包括した地域医療連携センターを設置し、一層の推進を図る。公明豊橋市議団が推進した助産師外来、女性相談室などもきちんと機能している。

 病院経営そのものは順調に推移しており、開設から10年間は建設にかかわる建設改良費や病院用地年賦購入費などが経営を厳しいものにしていたが、あと5年をメドに黒字経営に転換する予定。現在は更に「7対1看護」の早急な実施体制のため看護士の募集に懸命。

 新市長は「日本一の医療が受けられる市民病院」づくりを標榜する。

●経営指標にない「思いやりの心」

 12月20日に高血圧、高体温に襲われ、この市民病院に入院して以来35日、得体のしれない細菌との戦いに目途をつけて、1月24日に退院することになった。
 感慨ひとしおであるが、主治医をはじめ医療スタッフの皆さん、そして何より看護士の皆さんの献身的なサポートがあっての故である。
 「昼間担当の○○です。よろしくお願いいたします」、「お食事は完食されましたか」、「お体の調子はいかがですか」、「夜眠れていますか」。笑顔で掛けられる言葉にどれだけ癒されたことであろうか。

 体に不具合があり、不自由な患者はその分、ストレスもあり、我ままになる。その患者を包みこんで、看護する人たちの努力。仕事とはいえ、そのご苦労は計り知れないものがあるはず。

 廊下を通りながら、高齢で重篤な患者に、食事を口に運び、「おばあさん、おいしいですか」と声をかけながらの食事風景を何度見ただろうか。昼間からでも「おーい、おーい」と家族を呼ぶおじいさんに「大丈夫ですよ。家族の皆さんもおじいさんが元気になるのを待ってますよ〜」と手を握り、落ち着かせている姿を何度見ただろうか。
 それだけではありません。日常の体拭きから排泄にいたるまでほとんど表に出ない、かつ重い現場は家族以上の人間愛が貫かれなければ持続して出来ることではありません。

 豊橋市民病院の設立理念は「信頼に応える技術、人に優しい思いやりのある心、 地域に開かれた安らぎのある病院」としている。「思いやりのある心」と一口に言うが、それは、患者一人当たりの収益、ベッド使用率、人件費比率などという自治体病院の経営指標には表れない。

 国は一昨年末から、全国の自治体に対し、「公立病院改革ガイドライン」を提示し、改革プランを作成させ、3〜5年内に経営を単年度黒字化することを求めている。自治体病院の多くはその地域にとって掛け替えのない医療を提供している。単に黒字にすれば事足りるという性格の議論ではない。しかし、逆にムダを放置することで、自治体財政を脅かすこともまた許されることではないことも明らか。

 そのなかでも最も大事なことはなにか。第一に考えなければならないことは何か。日々、目に入る病院の懸命な光景から強く認識した一か月余の入院生活でした。


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