伊藤ひであきの地方からの提言


08論点 ドクターヘリは空飛ぶ救命室、されど      2008.03.02

●現場へ行ったわかったこと

 2月2日(土)公明党豊橋市議団で「ドクターヘリ、3才の男の子(光君)を救う」の現場へ行きました。

 新城消防本部設楽分署、津具分駐所、そして、光君が落ちた氷の張っていた用水。そして、2月22日(金)、今度はドクターヘリのある浜松市の聖隷三方原病院と光ちゃんが運ばれた静岡県立こども病院。一口に現場主義といいますが、現場へ行って分かったことがたくさんありました。

なぜ、光君は助かったのか

@光君の事故は1月2日の午前11時前後に起こった→夜間であれば、お父さんが池に落ちている光君を見つけることができなかった。何よりもドクターヘリは夜間には飛べない。

A事故現場は、津具分駐所から車で2分のところにあった→津具分駐所の担当エリアは岐阜県、長野県の県境にまで広がる地域。一番遠い県境までは1時間以上かかる。

B設楽分所から約20分かかる現場へ向かいながら救急隊員が、動転するお父さんに人工呼吸の仕方を携帯電話で冷静に、教えた→的確な、救急隊員の指示が心肺停止状態から、10分後には自己脈拍の回復が確認された。

C光君が救出されてから30分後の午前10時34分ドクターヘリは到着した。着陸場所は、旧津具村役場(現在は設楽町社会福祉施設が集約している)の駐車場。→正月休みで駐車場には車がなかった、またドクターヘリ救急現場着陸の原則があって救急現場から200m以内、覚知から15分以内の治療開始のため着陸場所でやむなく発生する被害を恐れない。

D救急隊覚知    10時02分
 救急隊現着/接触  10時08分
 ドクターヘリ要請 10時10分
 救急隊現発    10時29分
 ドクターヘリ着陸 10時30分
 ドクターヘリと合流10時34分
 ドクターヘリ離陸 11時20分
 こども病院着   11時46分
 この時系列の動きを見れば、いかに迅速な連係プレーであったことが分かります。

Eドクターヘリに乗ってきたドクターが「静岡県立こども病院」を搬送先に指定した→もしも、この事故が豊橋市内で起こっていたら、ドクターカーを呼び、豊橋市民病院に運ばれたとしても、高度先進医療(脳低温療法等)の治療ができたかといえば、結論は「ノー」。
 静岡こども病院のような重症小児患者のみを集中治療専門医が診察する施設ではないからである。ましてや、陸路豊橋市民病院まで運ばれたとしたら、2時間はかかる。

 ドクターヘリは救急車では搬送に時間がかかるから必要でなく、的確な医療機関に直線で運べるという威力が発揮されるから必要なのです。だから例えば豊橋市内は救急車で豊橋市民病院へ運べばいいという単純なものではない。

●ドクターヘリ時代に自治体が準備しなければならないこと

 以上「ドクターヘリが3才の光君を助けた」教訓から、「ドクターヘリ法」が成立し、ドクターヘリ時代を迎える地方自治体の役割が見えてくる。

@救急現場からの医療のための人材育成
・どのようなスタッフを現場に派遣するのか
・質の高い現場医療をどのような基準で選定するのか
・搬送手段の決定(救急隊のみで搬送、高規格救急車で救命士主体、高規格救急車で医師も同乗、ドクターヘリ搬送)

A特に一般市民からの救急要請→消防受信台で指令課員が受付ける。
・状況の把握(何を確認すればいいか)
・派遣車両を判断(現場でどのような医療が必要か)
・状況の継続的モニターと指導(参考:豊橋市消防本部では通報者と指令課員とのやりとりを録音し、その指示内容が適切であったのかどうかを、医師会に指導を受けている)

B高度医療で救命可能な小児患者をどこが責任を持って診療するのか、医療圏ごとにシステム化が必要。さらに地域医療計画に現場医療と搬送システム、着陸用ヘリポートの整備という視点が欠如していないか

C2006年の消防組織法改正を受け、災害発生時の初動体制強化など目的に、全国の自治体が広域化を進めている。スケールメリットを生かし、専門要員の確保や資機材整備、消防署の適正配置などを図っていく。人口30万人以上を再編の目安としている。個々で問題なのは「3次医療機関へのアクセス時間」。30分間の救命率は約50%という。その空白地域をどう埋めるか。

D愛知県でも病院の空きベッド情報などを消防本部が把握する「救急医療情報システム」が稼動している。今診てもらえる病院・診療所が自分の住所地にチェックを入れ、診療科目にチェックを入れると病院診療所が地図つきで照会できる。

 しかし、全国4358救急病院のうち、即時にデータを更新しているのは11%にとどまっていることが2月中旬の総務省消防庁の調査で明らかになっている。我が地域の現状の掌握と改善を図らなければならない。


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