伊藤ひであきの地方からの提言


06論点 進まぬ耐震補強      2006.02.24


●住宅崩壊対策がポイント

 豊橋市は平成14年4月に東海地震にかかわる「地域防災対策強化地域」(8都県229市町村)に指定され、H15年12月には「東南海・南海地震の防災対策推進地域」(21都府県652市町村)に指定されました。

 豊橋市は予想される東南海地震の震源域に近く、地盤の弱い沖積性が多く、市域の2割は地盤液状化の危険度が高い地域です。市独自の被害予想調査でも建物被害は全半壊で4万棟に達するとし、建築基準法が強化される昭和56年5月以前に建てられた木造住宅が3万6000棟と6割以上を占める事からも住宅崩壊対策が重要であることが指摘されています。

●耐震診断を無料化

 よって平成14年度から耐震診断に要する経費3万円を補助し無料化して、この4年間(H14年1000軒、H15年2000軒、H16年1200軒、H17年1000軒)で5200軒の耐震診断に取り組んできました。

 耐震診断は市民からの申請を市の建築指導課が受付け、愛知県建築士会に委託し、豊橋市内357名の講習を受けた診断員が現地調査しチェックし点数化します。
 その結果0.7未満は「危険あり」0.7〜1.0「やや危険」1.0〜1.5「一応安全」1.5〜「安全」と判断します。H16年度の耐震診断では774件のうち332件(42.9%)が0.7未満で「危険」、259件(33.5%)が0.7〜1.0「やや危険」という結果です。

●耐震補強に補助金

 一方、阪神淡路大震災で全半壊した24万棟の公的負担(解体撤去、仮設住宅、住宅再建支援等)は9326億円。1棟あたり389万円の費用がかかった教訓から、「個人財産に投入するのはいかがなものか」という声を乗り越えて平成15年度から県市で60万円を限度に改修補助金を用意しています(H15年100棟、H16年100棟、H17年100棟)。「一応安全」の基準である1.0以上に耐震補強することが条件です。
 H16年度の豊橋における改修費平均は145万円であり、改修費の約半分を補助していることになります。

●それでも進まぬ耐震補強

 豊橋市内にはS56年5月以前に立てられた建物は36,000棟。耐震診断は4年間で5200軒と15%、耐震補強は3年間で280軒(0.7%)という実態です。市建築指導課は地域別説明会や企業、デパートやイベント回りなど工夫を凝らして、耐震診断と耐震改修のPRに努めてきましたが、木造集宅耐震改修は遅々としか進んでいません。

 H16年に耐震診断し、危険ありの0.7未満の市民にアンケート調査した結果「改修工事を迷っている、または行わない理由は何ですか」との問いに26.6%が「経済的理由」、「安価で効率的な工事方法が分からない」が24%、「信頼できる業者がわからない」が13.3%、「工事が面倒だから」が9.9%「あきらめている」が5.7%「その他」と「無回答」が20.5%となっています。

 豊橋市では「地震被害予測調査」では想定東海地震及び想定東南海地震での全壊棟数は4,000〜4,500棟、想定東海・東南海地震連動では約12,700棟となると予測しています。「あらゆる被害状況は家が倒れるところから始まる」といわれますが個人所有の民間木造住宅の「耐震補強」をどう進めるかは大きな課題です。

●国も積極策で攻勢

 こうした動きと課題に対応し国において積極的な住宅耐震改修の05年度補正予算から補助拡大がなされる。これまで三大都市圏や東海地方などに限られていた「住宅・建築物耐震改修等事業」の地域要件を撤廃し、全国で耐震改修を促進する。これにより、従来から 最大で全額公的補助で耐震診断ができたのに加え、耐震改修も補助対象となります。
 さらに、自治体の判断で住宅や建築物の耐震化に使える地域住宅交付金を大幅に増額する。同交付金は密集市街地整備、公営住宅の建て替えにも使える。
 税制面では、耐震基準見直し以前の住宅について、耐震改修工事を06年4月から08年12月末までに行う場合、工事費の10%相当額(最大20万円)を所得税から控除し、改修した住宅の固定資産税も最大3年間半減する。
 このほか地震保険の普及を図るため、来年年から、所得税で保険料を最大5万円、所得から控除できる制度も新設される。

 こうした動きに呼応して、豊橋市では18年度予算案では、今までの年100棟から130棟と30棟増やして改修補助金を増加させた。今までは耐震診断の結果0.7未満の「危険あり」が対象であったが、0.7〜1.0「やや危険」に対象が拡大されたにもかかわらず・・。

 また豊橋市が中心となって「東三河地域防災研究協議会」を設立し国立豊橋技術科学大学と連携し地域密着型防災対策等の調査研究を行っています。その中のテーマには「橋梁の耐震性・損傷調査」や「木造家屋の低廉安価な耐震補強法」などがあり、建築工学の英知を「防災都市づくり」に反映していく、地域連携の仕組みを作ろうとしていますがまだまだこれからです。

●横着な市民に改修を迫ろう

 「自分が生きてる間には地震は来ないだろう」「耐震改修しても自分の家は大丈夫だ、壊れたら、その時はそのとき」という市民の横着さ(社会心理学では「正常化の偏見」という)が、地震保険と同じように耐震改修への腰を重くしている。
 事実、H16年9月5日に紀伊半島沖を震源地とする地震があって豊橋は震度3という揺れがあり、その直後から5日間で153件の申し込みがあり、この年の12月議会で200件分の耐震診断費用を補正した経過もある。
 豊橋市では耐震診断した1.0以下の対象世帯にダイレクトメールで改修をアナウンスするという。耐震改修が進めば、直ちに補正予算を組むという。

 国土交通相が企てた思い切った支援策、この支援策でどのような防災都市を作るか。地方自治体の行政と議会の智恵と企画力が問われている。


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