伊藤ひであきの地方からの提言


06論点 介護保険の適正化の現実と課題      2006.02.23

●介護保険は地方主導で

 97年10月11日の公明新聞一面の投稿ボックス「私の視点」に私の拙文(原文は「ひであきレポート」介護保険に意義あり)が掲載されています。00年4月からの介護保険制度スタートを前に全国の自治体がその準備に追われている頃でした。
 その中で私は「高福祉は高負担とセットでなく、高福祉は地方分権とワンセットでなければならない」と介護保険の実施主体が市町村である以上、「市町村に計画立案を任せるべき」と主張しています。市議会の中でも「介護保険は自分の地域の将来は自分達が責任を持つという地方分権の試金石」であると主張してきました。

 今回の介護保険の改正は本当に地域で支援を必要とする人たちにとって適切な見直しだったのでしょうか。たしかに財政的側面から制度の持続可能性を確保することは必要ですが、制度維持を主眼とした改革の遂行は、多様な課題を背負っている要介護者と向き合わなければならない地方自治体にとって大変に厳しいものとなっているのではないでしょうか。
 全体的に給付費が急増している、不適切な利用が少なくないといった理由 で、制度全体を一律に規定するやり方は、現場感覚と一致しません。介護保険は地域保険であり、改正の方向も地域主導で向かうべきですが、国の動きは全国一律の向きが強いのが歪めません。しかし、今回の制度改正を前向きにとらえ、要介護者にとって安心できる方向に向けて、地域ケア・地域福祉をどう構築し、展望を開いていくのかが問われていきます。

●介護給付費の適正化

 さて、今回の改正法の附帯決議(平成17年6月16日 参議院厚生労働委員会)に注目したい。附帯決議は24項目と膨大だが、その一つに次の文言がある。「市町村の保険者機能の強化及び介護給付費の適正化を一層推進するため、居宅サービスの実施状況を保険者において国民健康保険団体連合会と連携し、より正確に把握管理するシステムの確立を早急に図るとともに、介護費用通知の実施拡大・不正請求の防止を徹底すること」とある。

(以下「介護保険情報1月号」保険者機能の強化と介護給付費の適正化を一層推進するために-永翁 幸生氏を参考)
 例えば「介護給付費通知」の実情を見てみよう。豊橋市の場合、介護保険特別会計の給付費は特会の95%を占めて、今年度予算でも12,456百万円と膨大です。
 サービスの提供から給付費通知までの大まかを流れは、例えば1月サービス分についてみると
 @サービス事業者がサービスを提供
 A2月10日までにサービス事業所が請求書を国保連合会に提出
 B3月中旬頃国保連合会が給付費納付書(請求書)を市町村に送付
 C3月25日までに市町村が給付費を国保連合会に振込
 Dその後、市町村が給付費通知を利用者に送付となっています。

 ここで問題なのは国保連合会が給付費納付書(請求書)を市町村に送付してから市町村が給付費を国保連合会に振込むまで(BからCまで)わずか7〜10日しかないことです。請求内容の確認は全く行われないまま、巨額の給付費が国保連合会へ振込まれているのが実情です。

 そうした流れで行われている「介護給付費通知」について厚生労働省は、通知書の送付により、「利用者に身に覚えの無いサービスの請求があっても疑義が分かる」とし、「市町村の保険者においては、『介護給付費通知書』とサービス事業者が利用者宅に置いている『サービス利用票』の内容とが合致しているか、利用者またはその家族に確認して頂くよう周知をお願いしたい」(17年2月18日・全国介護保険関係主管課長会議)と要請している。

●これだけある介護給付費通知、ケアプランチェックの問題点

 しかし、この介護給付費通知には、次のような課題・問題があります。
@介護給付費通知書が届くのは、サービスを利用してから早くて3カ月後で、市町村によっては3ヶ月分ないし4ヶ月分、中には1年分まとめて送付しているケースもあり、利用者や家族が確認するのは容易ではない。

A確認が容易でないのは、利用者のみではない。たとえば、利用者が「はっきり記憶していないが自分が利用したサービス回数と違うようだ」と市町村に電話をしても、実は、市町村は利用者の記憶間違いなのか、それとも事業者の間違いなのかをチェックできないのです。
 なぜなら、市町村には「事業者が利用者宅を訪問したか否か」を確認するデータが存在しないからです。ここに、実に深刻な問題があると指摘する関係者は多い。

B介護給付費通知の費用対効果について、実施市町村において検証がされていない。国保連合会に支払う手数料は1件当たり25円20銭である。。

C最も重大だと思われるのが、介護保険サービスの利用者は、高齢弱者であり、目が不自由であったり認知症の方も少なくなく、しかも独り暮らし世帯、老夫婦世帯、昼間独居の世帯等が年々急増していることを考えると、介護給付費通知書をもらっても、その意味を理解できない方が少なくないことです。
 そうした高齢者に対し、何ら配慮をせずに介護給付費通知書を機械的に送り続けているとすれば、それは改正法が高らかにうたう高齢利用者の「尊厳」をふみにじるものと言ったら言いすぎでしょうか。

 ケアプランの適正チェックはどうでしょうか。豊橋市においても介護保険サービス受給者は1万人を越える。それと同じ数のケアプランの作成・見直しが繰り返されています。しかし、そのチェックが取り決めによって1事業所2例程度で果たしていかほどの意味があるでしょうか。サービス事業者を牽制する効果を狙ったものとしか考えられない。その目的とするケアマネジメントの質の向上と給付適正化とは縁遠い現実があります。

 附帯決議にあるように正確に把握管理するシステムをいかように確立し、わかりやすく有効な適正化対策をいか様に推進するのか。
 そして、いかように保険者機能を強化し、大幅な保険料値上げの説明責任を果たしていくのか。値上げとムダを無くすことはセットでなければならないはずです。

 課題は山積しています。


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