伊藤ひであきの地方からの提言


06論点 ばあちゃんに筋トレ?      2006.02.20

●ばあちゃんは介護の生き字引

 一昨年夏から同居を始めた我が家の義母−以降ばあちゃん。8年前に爺さんを亡くし岐阜で一人住まいをしていたが、80歳を超え、足元もふらついてきたので豊橋へ引っ越してきて、同居が始まった。長女は神奈川県藤沢市、次女(私の妻)が豊橋市、どういうわけか豊橋の次女のところを終のすみかと決めた。

 岐阜の時と同じように、介護サービスを受けたいという。早速、介護保険課に申請した。調査員が来られ、訪問調査。近くの主治医の意見書も提出し、認定審査の結果、要介護1となり、制度に従って在宅の上限−16万5800円のサービスが受けられる。早速、ケアマネージャーが来られ、ケアプランの作成が行われた。

 それでも午前中は専用スティッキをもって近くの公園にゲートボールに行くくらいなので、まだまだ元気。甘いものが好きで、つまみ食いをするから糖度が高いくらいで・・。それで週2日ディサービスにいっている。
 昨年12月は月7回行った。すると12月分の給付は以下のようになる。
 単独通所介護3中度 709単位×7回=4963単位
 送迎加算      47単位×14回=658単位
 機能訓練体制加算  27単位×7回=189単位
   合計            5810単位×10円=58,100円
の介護サービスを受けたことになり、費用負担はその1割の5810円(残りの9割52,290円は保険請求)
 そのほかに食費が550円×7回、レクリエーション代(折り紙を折ったりする材料)100円×7回、理美容 顔そり700円×1回 対象外サービス合計5250円 負担総額 11,060円となる。
 うちのばあちゃんは制度限度額(165,800円)に対して35%のサービスを受けていることになる。ばあちゃんと同居したことにより、介護保険の実態が現場検証できることは、大変にありがたいことである。

●増える認定者、膨らむ会計

 豊橋市介護保険特別会計は平成12年度から始まった。
平成12年度は9,614百万円、要介護認定者4,513人。
平成16年12,836百万円(H12比133%)、認定者は8240人(H12比182%)。
来年度予算では14,320百万円(H12比148%)認定者は遂に10,059人(H12比222%)
 とうなぎのぼりである。保険料も市民税本人非課税の第4段階で3760円とこの17年度までの2,650円と1110円あがることになる。

 今回、介護保険が改正される。改正の焦点は介護予防サービスを新たに導入することと、施設に入る人から食費や居住費をとって、在宅サービスの利用者との不公平をなくすことだ。但し、施設給付の見直しについては昨年10月から実施済み 。
 当然ながら、国は介護予防を重視して結果的に給付費を削減したい考えで、このまま利用者が増えれば保険料は上がる一方だ。政府は、改革を実行すれば全体の給付を減らし、保険料も将来5000円前後に抑えることができるという。やがて「団塊の世代」が高齢者の仲間入りをする。サービスの内容を見直し、低所得者にきめ細かい配慮をしつつ、施設の入居者に食費や居住費を払ってもらうのはやむを得ない。

●本当に予防になるのか

 けれども、利用者の立場からすると改革の具体的な姿がよく見えず、不安を感じる点もある。その一つが新しい予防サービスだ。国会の審議でもこの点に議論が集中した。
 政府案によると、要支援や要介護1といった介護の必要度が低い高齢者の大半は、これからは新しい予防サービスを受けることになる。
 主なものが筋力トレーニングや転倒予防などだ。今までの家事を代行するような家事援助サービスから、例えば高齢者と一緒に食事を作るようにするなど、予防を重視したものに切りかえるという。

 考えて欲しい。近所の一人暮らしの春子さんの場合。「おばあさん、こんにちは」とやってきたヘルパーさんが、さっさとまず昼食を作って、「おばあさん食べとってね。今のうちに買い物に行ってくるわ。買ってくるものはこのメモでいいわね」。帰ってきたら「あと15分の間にお掃除しますね」と60分を有効に使っていたとする。
 それなのに「さあ、おばあさん玉子焼きを作りましょう。まず卵を冷蔵庫から出して」「さあ、割って」「あらら、中身が落ちちゃった」などとやっていたら食事ができるまでに何分かかるだろうか。それだけで1時間かかるかもしれない。

 また、筋力トレーニングはどこでどのように受けるのか、どんな人が対象になるのか、肝心の新サービスの内容や値段、利用の限度額などの具体像がわいてこない。
 大体、うちのばあちゃんに筋トレなんてできるのか。筋トレすれば介護度は進まないのか。そのような検証例はどこによるものなか。

●さまざまな自立の姿

 「やれるのに、やらないから悪化するのだ」と言うがそうだろうか。生活の自立の仕方はさまざまである。軽度要介護者の限度額に対するサービス利用率は50%に満たない。うちのばあさんは35%である。贅沢に利用しているのではない。

 また、市町村に新たに設置する「地域包括支援センター」で新しい予防サービスのプランを決めるという。住民に身近な市町村がかかわるのはいい。しかし、短期間のうちに公平な認定やサービスの態勢を整えられるのだろうか。

 家事援助は栄養のバランスのとれた温かい食事や清潔な日常を提供することで、高齢者の健康維持と一人暮らしを支えている。一部に不心得な利用例があり、家政婦派遣と変わらないという批判もあるからといって、ほんとうに必要な人への家事援助まで打ち切ってはいけないのではないだろうか。

 うちのばあちゃんが「豊橋へ来てよかった」といってくれるような使いやすく、安心できる介護保険のあり方を、現場主義で考えている。


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