伊藤ひであきの地方からの提言


06論点 歌やゲームで英語が身につくか      2006.02.26

●年間3時間を20時間に

 「国際共生都市」をめざす豊橋市は「英語教育推進特区」の教育特区申請を行い、12月下旬、特区認定通知がなされ、この4月から「英会話のできる豊橋っ子」育成プランにそって走り出す。

 現在、本市では小学校3・4年生で年間3時間の英語活動がSA(スクールアシスタント:地域の英語に堪能な日本人)と学級担任の指導で行われ、小学校5・6年生は年間3時間の英語活動をALT(外国人英語指導助手)と学級担任の指導で行っているが、わずかな時間数であることから英語運用能力は身につかないのが課題となっている。

 それで、「英語教育推進特区」である。小学校3・4年生には英語に親しみ、外国への興味・関心や英語学習への意欲の喚起をはかる。また歌、動作、ゲームを用いて英語のリズムや音声に親しむとして学級担任とSAによる年間20時間の授業を組むことにしている。
 また、小学5・6年生にはコミュニケーションを楽しみ、簡単な会話の応答ができるのを目的に、学級担任とALTによる年間20時間の授業を予定している。
 めざすのは臆することなく外国人とコミュニュケーションを諮れる「英会話のできる豊橋っ子」である。

●国際感覚を身につける?

 特区に至った背景を教育委員会は以下のように総括した。
@国際共通語としての英語の役割はますます重要になり、21世紀の国際社会を生きるために必要な能力の育成。
A豊橋港という海の玄関口を、人口の5%近くを占める外国人居住者も多い本市の国際共生都市として飛躍するための教育環境。
B児童期から英語に親しむことにより、外国人や外国語へも抵抗が少ないという早期英語教育の効果。
C文科省の意識調査では、小学校での英語教育の必修科に賛成する保護者は70.7%、小学校で英語を扱うことに賛成する保護者は91.1%となっており、保護者と教育現場の要請は強い。
としている。

 しかし、ちょっと待って欲しい。「国際共通語たる英語を身につけさせるためには他のアジア諸国(韓国:小3〜年間25時間、中国:小3〜年間160時間、シンガポール:小1〜週48時間、自国語・社会・道徳を除いてすべて英語で授業を行う)、並みに小学校から教える早期英語教育の必要がある」とは小学校に英語を導入しようとする人々がよく口にするせりふである。そして、英語教育特区認可地区は金沢市、倉敷市など42地区に上っている。

 しかし、これはどれほど有効な施策であろうか。

●ハングリーでなければ身につかない

 日本では、旧植民地アジア諸国のように英語力が社会階層を鋭く分断しているわけではない。日常には英語ができなくても不自由しないし、社会的成功も収められる。

 それだからこそ、英語教育には「特別な覚悟と努力が必要」であり、「平均的日本人が国際社会で機能できる英語力を獲得するには約5000時間もの集中的学習が必要」という指摘する研究もある。年間3時間の「小学校英語」が20時間になるだけでは保護者の気休めにしかならないのではないか。

 「子供なら楽に英語を学ぶ」という通説は人間関係が日本語で完結する日本社会に当てはまるだろうか。「発音が良くなる」「国際感覚が身につく」などといっても「良い発音とはどういう発音であろうか」「国際社会を生きるための能力って何か」も掘り下げるべきでないだろうか。

 市内に住むブラジル人を始めとする在住外国人は、「日本社会で働き生きるために」必死に難しい日本語をマスターし、日本社会で生きている。

 僭越ながら、高校時代はサッカーに明け暮れ、家では一度も机に向かったことがなかった(岐阜県の決勝で敗れて全国大会出場の夢が果たせなかった親父にかわって愛知県代表で全国大会に行った)息子は、専門学校を出て、2年間、社会で働き、そこで貯めたお金で、ワーキングホリディの資格で2年半イギリスに滞在した。
 語学学校に行ってもアジアからの留学生ばかりで、日本語が通ずる社会であったので退学して、現地のピザハウスで働いて生活し英語を身につけて帰ってきた。

●海外留学の奨学金を!

 「小学校英語」のような費用対効果不明の「バラマキ支出」でなく、海外で活躍できる可能性を、経済的にゆとりある階層の特権にするのでなく、豊橋の若い世代に均等に保障するために、特別な「覚悟」をもち「努力」をしながら、経済的負担に耐えられない若者への奨学金に当てるほうが賢明ではないか。

 豊橋の国際化に向けて「英語の歌やゲーム」を小学生に課するよりはるかに力強い牽引力をもたらすと確信する。
 「年間3時間の英語の時間を子供たちは楽しみにし、喜んで授業を受けています」と小学校の先生はいう。しかし、たのしく、おもしろい授業と「英会話のできる」こととは別なことではないだろうか。


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