伊藤ひであきの地方からの提言


05夏 「郵政民営化」が突きつけているもの      2005.07.18

●救いがたい借金大国

 延長国会最大の焦点である郵政民営化関連6法案は7月15日、参院郵政民営化特別委員会で審議が始まりました。7月6日の衆院本会議での採決は5票差という薄氷を踏む際どさ。

 8月13日の会期末をめざして8月5日の特別委員会、そして8日の参院本会議での採決という一定のゴールに向かって夏本番の熱いレールの上を走り始めました。

 今年度の国の予算は82兆円、しかし税収は44兆円と歳出のほぼ半分という現実。国、地方合わせて1,000兆円の借金を抱えて破産寸前の日本経済にあって効率的で質の高い小さな政府を作るための「聖域なき構造改革」は急務の大命題であることに異論はありません。

●官が握ってきた莫大な郵貯・簡保資金

 そして、これほどまでの借金まみれにした要因に挙げられるのは国民の金融資産の四分の一に当たる350兆円もの郵貯資金が0.1%か0.2%の金利を上乗せして、つまり0.1%でも3500億円もの税金を使って返済することを前提に国債の購入に充てられたり、第二の予算といわれる財政投融資を通じて、公共事業や官営事業にたれ流してきたのです。かっての国鉄の毎年のたれ流しに2兆円、三本の本四架橋の赤字合計は毎年500億円。道路四公団の借金総額は40兆円・・、その一部は不良債権化し、その処理のためにまた税金が使われてきて膨大な借金を作ってきたという事実です。  その上に、橋梁(きょうりょう)建設をめぐる日本道路公団OBの暗躍・・・、要するに郵貯・簡保の莫大な資金を官が握ってきたことが、諸悪の根源なのです。

●資金を「官から民へ」

 よって郵政民営化とは、特殊法人への資金の流れ、すなわち「官から官へ」の流れを断ち、国民のお金を国民の元で使えるようにする、すなわち「官から民へ」の改革なのです。郵貯・簡保という本丸が民営化されれば、特殊法人もおのずから改革されていく、まさに「郵政改革が構造改革の本丸」なのです。

 冷静に見てみれば、いまや、郵便物の収集は日本郵便逓送(ニッテイ)という会社がやっていますし、配達は主婦や学生アルバイトもやっています。確かに明治の近代化の過程においては「官」でやることが不可欠だったのでしょうが、郵貯の分野には銀行が、簡保の分野には生命保険会社が、郵便の分野にも宅急便が智恵と工夫で頑張っています。いつまでも国が毎年1兆円以上も補填して維持する必要性はどこにもないはずです。

●お粗末な反対勢力のお家事情!

 私たちが身近に使うのが特定郵便局、全国で2万7千あります。特定郵便局長は国家公務員であり、実質世襲です。票と引き換えにこの特定郵便局の厚遇を支えてきたのが郵政族といわれる国会議員です。特に旧田中派(現、平成研)を中心に特定郵便局長の組織「大樹会」に叱咤されて、この既得権益を守ろうと「改革反対」に動いています。それをまた、マスコミは煽っています。

 また民主党が郵政民営化に反対しているのは約28万人の常勤職員が非公務員化されることに労働組合系の議員が猛反発しているからでしょう。対案も示さないまま反対ばかりです。

●世界から取り残される日本!

 ふと日本を取り巻く世界の動きを見て唖然とすることがあります。異様なまでの世界の高成長の中で台頭するBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、シンガポール)、逆に「失われた10年」から立ち直れないまま止めどもない借金地獄の日本経済の明らかな落差です。
(世界GDP実質成長率 01年1.0%、02年1.9%、03年2.6%、04年3.9%、05年予測7.4% 日本の実質成長率 01年0.2%、02年▲0.3%、03年1.3%、04年2.6%、05年予測1.1%)

 さらに決定的要素はもはや日本は人口構造が現在の1.28億人から急激にピークアウトし、2050年には1億人を割り、その時の高齢化率が40%を超えるという世界で類を見ない少子高齢社会に突入していくという紛れもない事実です。逆に例えば現在13億人を超えた中国は2050年には17億人を超えるといわれています。

 こうしたグローバルな潮流の中で、官が民の足かせになるような悠長なことはやっておれないのです。突きつけられているのは「郵政解散」でなく「日本が世界から取り残されていく現実」なのです。日本がまともな資本主義国家になっていけるのかどうかの試金石なのです。

 それでも尚、郵政民営化を政局にして、内輪もめの政治的空白の中で「おらが先生たちの島国の政治ごっこ」は続けられていくのでしょうか。


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