伊藤ひであきの地方からの提言


04秋 地方から「女性専門外来」を考える      2004.09.12

●開設の影に課題は多く

 2年前から「女性専用外来」が全国に相次いで設置され性差に応じた専門的な治療が行われ始めたという事は、まさに「医療革命」です。

 しかし、できうる限り女性議員を伴って各地の「女性専門外来」を視察し(県内3病院をはじめ10病院)、時には外来に来る女性の状態をじーっと待合室で観察したりして情報収集や調査をしてきました。とりもなおさず我が豊橋市民病院(920床、1日あたり外来患者2400人、入院患者820人 職員定数927人 規模では地方公立病院としては国内一といわれています)に「女性専門外来」を一日も早く開設したいという思いからです。
 勿論、「女性専門外来」のこうした動きは始まったばかりであり、今後のPRと取組みによって設置目的を叶えていく努力によって結実していくことになりますが、「開設しました!」という華々しさのなかに多くの疑問点も感じました。
 それは「入り口女性で、出口は男性(専門外来は経験豊な女性医師が担当していますが、そこで振りわけられた診療科にはほとんど男性医師が待っている)」という現実です。
 また、30分の診療時間の5割から時には8割の時間が、愚痴と悩み相談に終始しているというケースが多いということです。白衣を着たステータスの高い女医が包み込むように更年期障害の悩みを聞いてあげることで、かなりの診療効果を挙げている現実です。

 2時間待って3〜5分診療が日本の医療の現場です。豊橋市民病院の場合、外来患者の単価は約8000円、この視点からは20分に一人、30分に一人という予約診療は紛れもない赤字部門です。
 しかし、それでもなお、「地域の医療ニーズに応えるのが公立病院の使命である」という一点で病院長と、経験豊な女医と、そして議会の後押し、なかんずく公明女性議員の頑張りと大量の署名の重みが開設に向かわせています。

●女医の不足は継続性に疑問

 ただし、この場合でも条件があります。「経験豊な女性医師」の存在があるかどうかです。この裏側には決定的に医師の世界への女性の進出が遅れているということもいえますし、開設したところも何らかの理由で担当の女医がリタイアされた時には後継医師が確保できるのかという問題もはらんでいます。
 もう一ついえば総合診療という医学が日本ではまだまだ確立されていないという現実があります。

 「女性相談」なら女性会館でやればいい。現に平成7年からは市内の女性医師が担当して女性のための「女性医療総合相談」を行っている。年6回開いて約20人の相談に応じている。あるいは、こういう事は福祉保健部健康課の役割ではないのかという行政側の声もあります。

 また患者の中には「遠くから期待して女性専門外来に来たのに症状を詳しく聞いてもらえずに別の科に回された」という不満や、女性医師が性差治療の専門知識に乏しく婦人科へ、皮膚科へと振り分けるだけの対応にとどまっている病院もありました。始まったばかりでも即座に質が問われています。
 長年、医療に取り組んできた医師会幹部からは「ただ女性医師が診察すればいいわけではない。女性医師ならではの対応ができて初めて、女性専門外来の存在に意味が出てくる」と指摘します。

●市民病院のコンセプト

 豊橋市民病院の場合、開設に踏み切れないもう一つの理由がありました。それは、東三河18市町村の第三次救急医療を担う基幹病院であり、ガンや白血病などの急性期治療を担う高度医療を提供するという基本方針で運営されているという事実です。
 よって、5名の女医もどちらかと言えば手術などが裁ける若手の医師を採用しているということ。

 そうした中で、昨年6月議会以来、市当局は「婦人ドック」などの「検診制度」を充実させ、女性スタッフにより、きめ細かく対応するなどしながら、さまざまな手法を研究してまいりたいという答弁に終始してきました。

●署名の重みが「相談室」の扉を開いた

 そして、本年3月末「豊橋市民病院に女性専門外来の設置を求める要望書」を45,364人の署名を添えて市長に提出しました。
 そして9月議会を迎え、市当局と充分に詰めた上で以下のような質問を展開し、豊橋市民病院に「女性専門相談室」を開設する事が決まりました。

 その質問と答弁の内容は以下です。


 伊藤:この8年間で「女性助役」の登用、「男女共同参画課」の設置、そして今春の「男女共同参画推進条例」の制定など女性施策も大きく進んだことは「男女共同参画の時代」の追い風があったとはいえ評価できるものです。
一つ足らないものがあります。それは豊橋市民病院における「女性専門外来」であります。

 昨年来開設した、新城、春日井、一宮と「女性専門外来」を視察してきて気がつくことは、経験豊な女医の存在があって開設できたということですが果たして継続できるのかどうかという疑問も残ります。
 第三次救急医療を担う基幹病院であり、急性期の病院をコンセプトにする豊橋市民病院には88名の医師のうち女医は5名、それも若手。女性専門外来のために経験豊な女医を新たに連れてくるにはそれだけの財源が伴いますし、赤字部門を作る結果にもなりかねません。
 ならば、小牧市民病院のように女性専用相談室や西宮市民病院のように経験豊な看護士による女性医療相談室などはこの趣旨を充分に反映したものでニーズに応えています。
 この春、市長に提出された45,364人の署名に答える道も工夫次第であるのではないかと考えます。
 昨年6月議会以来のこの問題に対する市長の前向きな取組みから、いよいよその具体化についてお伺いいたします。

●女性患者の悩みに対応

 市長:先に、女性専門外来の設置を求めて4万5千名にのぼる要望書をいただきました。このことは大変重く受け止めさせていただき、既に実施している病院への視察を行うなど勉強を進めてまいりました。
 女性専門外来の必要性は充分認識いたしましたが、継続的な女性医師の確保がむずかしく、現段階では直ちに実施できる状況にはありません。
 当面は、女性医師の代わりとは参りませんが、経験豊富な看護師や臨床心理士、ケースワーカー等の女性スタッフがサポートする「相談室」を設置し、悩みを抱えた女性患者さんの不安を少しでも解消できるよう努力してまいりたいと考えています。

 伊藤:私ども、豊橋市議団が昨年来、具体的に市長に提案し、要望していたのは「男女共同参画推進条例」であり「特別職の退職手当の適正化」であり「乳幼児医療費の無料化の拡大」であります。
 そして、今年3月末、多くの市民の署名とともに要望していたのは「子どもの安全対策であり、女性専門外来であります。その中で、女性専門外来だけが答えがいただいていませんでした。
 しかし、ただいまの答弁で「女性医療相談室」の開設を明確に答えていただきました。女性特有の身体的症状や精神的な不安をいだく女性にとっては大きな朗報になります。

●スタッフと部屋がポイント

 昨年12月議会に問題提起させていただいた「特別職の退職手当」は、今年3月議会の条例改定とともに5%の減額がなされました。同時に給与も改定されましたので市長だけで約300万円の減額です。
 しかし、このお金を原資に市民病院の中に「女性相談室」を開設していただければ、その相談室を「早川(市長の名前)ルーム」と永遠に市民は、特に更年期障害に悩む女性は顕彰することでしょう。スタッフと部屋が成功のポイントであることも視察して学んできました。大いに期待し、この質問は終わります。


 昨日のこの地方の新聞各紙は「市民病院に"女性相談室"!要望書を重く受け止め」の大見出しが踊っています。

 経験豊な看護士はこの場合のキーポイントです。市民病院のことに精通していて、何よりも各診療科の各医師をよく知っていること。また、長年の現場経験で治療のあり方とその効果にも精通していること。また「医療相談」ですから保険診療でなく、患者負担無しの無料であることもポイントです。

 せっかく時流に乗ったのですから女性の苦痛に共感して相談する姿勢を共有し、ニーズの高まりの中で継続性のある「女性専門外来」のあり様について今後も努力していきます。


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