★「ひであき」の地方からの提言 ★


郵政民営化問題の本質
●奇怪な特定郵便局

 郵便局にも様々あって、名古屋中央郵便局、豊橋郵便局、刈谷郵便局などの大型郵便局は1300。ここで集配業務を行っている。
 問題は2万5千箇所もある特定郵便局。郵便局のほとんどがこれである。例えば切手やハガキを買いに郵便局に行くとしよう。たいがいの人は「本局」と呼ばれる規模の大きい郵便局ではなく、職員が数人規模の小さな郵便局に行くだろう。郵便貯金の口座を持っている人が、貯金をひき出す際も同様だ。こうした小さな郵便局は地域には必ず一つはある。利用者にとっては最も身近な郵便局。これが特定郵便局。

 利用者にとって最も身近ということは、郵政三事業を最末端で支えているということでもある。その功績は大きいというほかはない。
 郵政省の「郵便局組織規程」によると、その定義は「特定郵便局長を長とする郵便局」であるという。全くもって意味不明だ。「特定」郵便局との名称からは、何か特別な郵便局であるかのような印象を受けるが、つまりは国内の郵便局のほとんどが、この特定郵便局なのである。

 地域社会に身近な郵便局なのだから、これだけの数と割合になるのも当然のことではある。一般に特定局は一キロメートル圏内に一局あるといわれている。これは小学校とほぼ同じで、子どもや老人が歩いていける範囲が目安とされているという。

●国家公務員の世襲

 となると何が「特定」なのか。それは、その形態にある。特定局のうちの九割は、局舎の土地建物が国有ではなく個人の私有。しかもほとんどの場合、その所有者が局長に就き、さらに退職後は夫人や子息に局長の座が「世襲」されていくのである。後継者たちが、それまで郵政事業に全く関与してこなかった(つまり全くの素人だった)例も珍しくない。特定局は国の機関(地方支分部局という)であり、局長の身分は国家公務員である。局長の座を世襲することは、国家公務員の地位を世襲することになるのだ。

 こうして郵政省が特定局長たちに支払う賃貸料の総額は、年間850億円にものぼる。その他、「渡切経費」という名目で、光熱費や備品費といった局舎の維持費も提供される。国から家賃を受け取り、さらに国から給料をもらう。そして親から子へ、子から孫へと、地位が「相続」されていく。特定郵便局の局長とは、このように奇妙な存在である。
 制度として公務員の世襲が確立されていたら大問題だ。問題は実態として世襲になっていることにある。

 実態としての世襲を支えているカラクリは試験にある。試験に合格してるから世襲ではない、という論法だ。  
 しかし試験といっても一般公募しているわけではない。特定局長の試験の実施の告知や応募要項といったものを見たことのある人がいるだろうか。現実には特定局長の親族など、ごく限られた関係者しか知り得ない。
 はじめから世襲を前提に形式的に試験を行っているというより他に、その実態をあらわす言葉が浮かばない。全特中央事務局が郵政省内に、このように奇妙な存在である特定局長によって組織されている団体が全特である。

 それにしても、このような国家公務員の世襲と、奇怪な団体が、今日までなぜまかり通っているのか。これも郵政事業の長い歴史の所産である。特定郵便局の歴史は、郵便制度の創設とともに始まったといえるからである。

 旧逓信省の時代にそれぞれの地域の富豪などの有力者から土地と建物を無償で提供させ、彼らを「取扱役」に任命することで郵便業務を請け負わせるというものだった。この郵便取扱所が、特定郵便局の前身である。実はいまも地方に顕著にみられるが、特定局長は「地域の名士」とされる家が世襲していることが多く、あるいは名士として地域社会に認知されているのは、この系譜を今日なお継承しているためである。

  ●食い潰される巨大資金

 こうした郵便局が集めた貯金は350兆円。国営だから納税義務はない。よって高い利息が売り物で世界一の貯蓄高。このお金が財政投融資に使われ、日本の経済を支えてきた。700兆円の借金があっても日本がつぶれないのはこの貯金のお陰だともいえる。しかし、この財政投融資で日本道路公団や、年金事業団に使われ大変な赤字となっているのが現実。

 郵貯と簡保に集められた巨大資金の殆ど全部は、財務省(旧大蔵省)の資金運用部の采配とその背後で糸を引く国家議員や圧力団体の意向で、公社公団・地方自治体・政府系金融機関・第三セクター・保養所・外郭団体・官僚の天下り先等の必要性の低下した組織に多大に投入され続けて来た。

 挙句の果ては国民大衆の貴重な金融資産の相当部分が、不良債権化しており、現行のまま推移すれば、郵貯・簡保は、官の組織に食い潰されることになります。例えば、数十億円かけて建設したグリーンピア(保養施設)を数万円で売却した、継続すればするほど赤字の累積する本四道路公団を作った等は顕著な例。

●民営化は時代の要請

 この郵政を民営化して、「民間にできることは民間にやらせる」これを郵政民営化という。例えば東京中央郵便局は丸ビルの横、名古屋中央郵便局は駅前、いづれも一等地。あれだけの土地を使えばどれだけ儲けることができるか計り知れない。しかし、現状ではできない。
 全国には先ほど述べた1万8千の特定郵便局、17万の郵便ポストがあるがヤマト運輸の取次店だけでも27万軒。郵政省職員は約30万人、ヤマト運輸は7万人。それが同じような仕事をしている。

 郵政公社になって1年、ヤマト運輸やクロネコ運輸がダイレクトメールや雑誌などを配送して利益を上げている。国民は手紙も葉書も使わなくなり、FAXやメール、今や携帯メール全盛。
 全国各地隅々まで、信書(手紙)を「宅配」するという伝統は、旧来的考えでは、美徳かも知れませんが、今や、非効率の極み(国家的コスト高、経費無駄使い、国際競争力低下)となっている。

 民営化すると過疎地の郵便局は廃止されると言われていますが、「郵便局が過疎の村から撤退したら、私達(民間は)は喜んでそこでやりますよ。運送業は全国ネットだから信頼があるんです。それを『儲からないから扱いません』では、それだけで信頼がなくなります」とヤマト運輸は断言する。むしろ民間がやる気があるのに参入させないのが問題なのです。

●郵政族の奔走

 だが、特定郵便局にはもう一つの「顔」がある。それは、これらの特定局(正確には特定局の局長集団)が、自民党政権の強力な支持基盤となってきたことであり、何故にそれほどまでに影響力を持ち得るのか――。
 それは特定郵便局のこうした特異な実態と歴史に由来している。特定郵便局の存在こそが、郵政民営化論議迷走のカギとなっている。郵政民営化の問題とは、郵貯の問題よりむしろ、特定局の問題というべきなのだ。

 全国で1万8000人いる特定郵便局長が自民党員を20万人以上集めて、自民党の支援団体のなかではトップです。選挙の票も1小選挙区当たり平均3000票くらいある。それだけの票を動かす組織は非常に魅力的です。

 1位でないと当選できない小選挙区で、増える票が見えない反面、まとまった票を持った組織が逃げると確実に何千票か何万票減ります。減る票ばかり考えて、その組織の嫌がることは言えなくなるわけです。

 特定郵便局長としての身分がなくなる、今までの既得権がなくなる、だから反対する。けれども、民営化してどういうプラスがあるかは、まだ民営化していないから分からない。分からない不安定な票を当てにするよりは、確実に目に見え、組織で選挙を応援してくれる団体に支援を頼む議員が自然に多くなるのは議員の本能としては当然である。

 他の利益団体の場合、自分達の利益になるから選挙を応援する。しかし、郵政は民営化を唱えている人を目の敵にして「あいつを落とせ」と活動する。こうして今でも郵政族といわれる人たちの「民営化」への抵抗は続く。この夏は全国行脚をしてバリケードを強固にしている。

●しがらみがない公明党

 郵政民営化には公明党は基本的には賛成、ただし、全国2万4千ヶ所に上る郵便局ネットワークは利用者、国民の視点からサービスは低下させない。視聴覚障害者用郵便物の無料化など社会福祉の増進に寄与するサービスは継続させるという条件をつけている。

 自民党の集票マシーンである特定郵便局にも、約30万人いる全逓労組にもしがらみがない公明党が、与党のなかで「郵政民営化」についても独自性を発揮できるかも大きな焦点である。


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