伊藤ひであきの地方からの提言


04夏 三位一体改革の現場から      2004.08.20

●苦心の予算編成

 昨年度から始まった三位一体改革(@国庫補助金の廃止・削減A税源移譲B地方交付税改革を一体で行い、国と地方の税財政のあり方を見直す小泉構造改革の象徴)は今年度から本格的に始まった。

 我が豊橋市でも昨年度の普通交付税は49.1億円、臨時財政対策債は59.3億円、合計108.4億円。今年度予算を組むにあたって「普通交付税は前年比12%落としますよ」と国から言われていたが、それでも更にシビアに見積もって23%減の普通交付税41億円、臨時財政対策債42億円の計83億円で予算を組んだ。
 幸い法人市民税の伸びもあり、貯めこんできた財政調整基金116億円から38億円(前年度比+11%)を取り崩し、一般会計総額1125.3億円(前年比5.4%の伸び率)の予算を組むことができた。

 それでも人件費を▽3.6%の235億円に押さえるなどして歳入減に対応した。また滞納額が100億円近い市税と国保税の徴収に力を入れるため、口座振替の加入1件ごとに手数料(500円)を金融機関に支払うなどの策も用意した。

 日本で一番元気な愛知県といわれる昨今だが、87市町村のうち不交付団体は29ある。しかし、財源が少なく高齢化と過疎が進む東三河地方では財政難に拍車をかける結果となっている。
 いうまでもなく人口、企業共に少なく地方交付税に依存していて、地方交付税が削減されれば、削減分を埋める新たな財源はなく、影響は受けやすいのは当然である。三位一体改革に振り回される苦心の予算編成である。小規模自治体の切捨てになりかねない。

 豊橋から車で北へ1.5時間、長野県境の設楽町では普通建設事業費(農林道開発や町道整備など)は前年比▽43%に抑制し、徹底した緊縮財政。町三役、議員の報酬は5%カット、新規職員は採用しない。簡易水道未普及地域解消事業は延期、町営住宅建設事業も凍結。

 豊橋から車で南へ1.5時間、渥美半島の先端の渥美町では職員の調整手当てを愛知県で始めて廃止した。職員は年収の10%が減収した。町長と議長の公用車も廃止し、これからはタクシーや電車、町職員との公用車乗り合わせなどで移動するという。高齢者タクシー券の配布を5歳引き上げ、75歳からにし約200万円を削減するなど、涙ぐましい。
 渥美町長は「もう非常事態だ削減は予想をはるかに超えており、国のやり方に激怒した」と議会で答えている。

●減額ショック

 そして、参院選大詰めの7月上旬に総務省から普通交付税の内示があり、月末に算定額が確定した。東三河16市町村では、当初の見込みを10市町村で下回った。
 豊橋市の確定額は普通交付税14.5億円 臨時財政対策債は42.6億円 計57.1億円。豊橋市では当初予算と比較して25.9億円もの差があった。前年度の108.4億円から見れば実に47.3%の減額ショックである。三位一体改革がいよいよ現実のものとなってきた。

 市財務部長は「今後は、尚一層に事業計画の優先度を決め、予算全体のパイを小さくする以外に道はない」と嘆く。26億円の不足分は繰越金(約25億円)等で穴埋めする補正予算案をこの9月議会に出す予定。
 隣の豊川市では約6億円の不足に頭を抱え、繰越金を考慮しても3億円以上不足し、減額補正を考えざるを得ないと頭を抱える。

●何のための三位一体

 地方交付税は、全国的に一定の行政水準を確保するため、国が行う地方財政調整制度。自治体独自の判断で使える一般財源として交付され、地方財政収入の20%を占める。地方公共団体間の財政力の格差を縮小する制度であり、日本の護送船団方式の象徴のようなものであり、小泉改革により急速なぶっ壊しが進んでいる。

 04年度地方財政計画によると、補助金は公立保育所運営費などの廃止で4749億円、公共事業などの削減で5527億円など計1兆300億円を廃止・削減する。
 これに対し、総額4507億円が「所得譲与税」などの形で税源移譲されたり、交付金で手当てされたりする。廃止削減額の半分程度しか補えないのは、補助金の廃止分だけに、税源移譲されるためであり、豊橋市の所得譲与税は市民一人当たり1674円に人口を乗じて得る6.1億円。

 三位一体改革は、地方の自由度を高めて自主的な街づくりを可能にする−地方分権の一環であると位置づけるならばその意義は大きい。しかし、国の財政立て直しが目的であれば責任転嫁以外の何者でもない。
 昨年12月議会で三位一体改革の動向について尋ねた私の質問に早川豊橋市長は「国の関与の縮小により地方の自由度を高めるとともに、地方の行財政基盤を確立する方向で取り組まれなければならないと考えている」と答えている。

 また、「地方の自助・自律」をいうなら、地方への税源移譲は当然であり、所得税などの確固たる税源移譲があって初めて真の三位一体改革になる。税源移譲があいまいなまま交付税削減を先行させるやり方を三位一体とはいわないのでないか。こういうのをバラバラというのである。

 昭和25年のシャウプ勧告がなされて、今日の日本の税制が確立されてきたという歴史の中で、シャウプ勧告では「独立した財源が地方自治の基盤である」と定義している。 歴史に「もしも」はタブーだが、このシャウプ勧告が完全に実施されていれば、日本の地方自治は大きく変わっていただろうと残念でならない。

 税源委譲は当然、基幹税である所得税や消費税で行うべきだと考える。所得税から個人住民税へ3兆円、また消費税の5%の中に地方消費税が1%ある。これを2.5%にして3兆7000億円を地方に移す。これによって国税と地方税の税収割合を3対2から1対1にする。
 また所得税を住民税に移すことにより、受益と負担の関係が明確になり、何よりも自治体が知恵を凝らして地域の活性化策に取り組むのは、住民の所得が増加し、消費が拡大し、住民税として還元されることを期してのことであり、本格的な税源移譲がなければ自治体に無力感が広がりかねない。

 また、生活保護の補助率引き下げの問題や、義務教育費国庫負担金の削減については「問題あり」といわざるを得ない。これらは国が責任を持つべきものであるはず

●バネと努力と知恵と

 こうした中で全国知事会は8月19日、総額3兆2000億円に上る国庫補助負担金の削減案を採決し、賛成多数で決定した。焦点となっていた義務教育負担金も原案通り公立中学校の教員給与分8500億円を廃止するとし、市長会、町村会の了解を得たうえで、地方共通案として政府に提出するという。国と地方の税財政改革(三位一体改革)論議がいよいよ本格化する。
 今回の削減案は政府が2006年度までに地方へ3兆円規模の税源を移譲する代わりに廃止する補助金。補助金数は約160事業に上った。より規模の大きい税源移譲につなげるため、07年度からの3年間も含めて計9兆円規模の削減案となるという。

 「地方分権一括法」で国と地方は対等・協力の関係に変わったというが、真の「地方の時代」の幕を開くために、新しい関係を具体化する地方への税財源、権限の移譲を実現しなければならない。地方自治体と地方議会はその重責を担うだけの力をつけなければならない事も急務である。

 昨年秋、広島県呉市を視察したおり、いただいた呉市の機関紙「みてくれ」の中に歴史作家−堂門冬二氏の次の一文が載っている。
 「今の地方分権の流れは江戸時代の藩に戻っていくようです。藩は自前の政策を自前の計画によって展開する。その財源は自らの産業振興によって調達する。今で言えば、10割自治です。地方交付税や国庫負担金などは一文もないわけです。たとえ北限にあって生活必需品を生産できなかったとしても、それを自前で克服していかなければならなかったわけです。このバネとか努力のふんばりがこれからの地方には必要だと思います」と述べています。

 政府は先送りにしてきた三位一体改革の全体像を今秋には明らかにし、年内には決定するという。
 いよいよ正念場である。生き残りをかけて踏ん張るバネと努力と、それを裏づける地方の知恵がいよいよ問われる秋はもうすぐ。


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